財源を失う減税政策では
格差と貧困を是正できない

 政界の対立軸を「自己責任の社会vs支え合いの社会」に置くなら、私は枝野氏の一連の発言は、至極当然の考え方だと思います。自助や共助に頼り切らず「お互いさまに支え合う」公助の役割を拡大し、再分配の機能を高めようという考え方に立つなら、税目をどうするかなどの具体論はともかく、一般的に「減税政策で売る」のは矛盾すると考えるからです。

 しかし枝野氏は、2021年衆院選でその主張を弱めて「時限的消費減税」に言及することになりました。なぜなのでしょうか。

 枝野氏が「“弱い”野党第1党の党首」だったからです。

 立憲民主党はその一つ前の2017年衆院選で当時の野党第1党・民進党が分裂したのを機に結党されました。野党第1党になったとは言え、獲得した議席数は戦後最小。中小の野党勢力が「多弱」でバラバラになっていました。

 小選挙区制のもとで衆院選を戦う以上、野党第1党の党首は「次の首相候補」として自公政権に対峙し「政権選択選挙」を戦わなければなりません。しかし、小さな立憲民主党に、単独で政権の選択肢となる(それだけの候補者を全国で擁立できる)力はありません。かつての仲間だった国民民主党の議員の大半を事実上「迎え入れる」などして党勢を拡大したものの、まだ足りません。他の中小政党と選挙協力して、政権の選択肢としての「構え」を作ることが、強く求められていました。

 選挙協力を行うには、どうしても共通政策のすり合わせが必要となります。他の中小野党が強く求める消費減税を、枝野氏は無視できませんでした。

 衆院選を目前にした2021年9月、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党は、衆院選での「共通政策」に合意しました。6つの項目の中に「格差と貧困を是正する」という項目があり、消費減税はその中に、地味に一言触れられているだけでした。それでも多くのメディアが、結局は「消費減税」を見出しにとったのです。

「消費減税を言わないのは野党ではない」。この刷り込みの強さを、私は改めて思い知らされました。そして、この衆院選で立憲民主党が最終盤で失速し、公示前議席を減らしてしまった原因の一つは、実はここにあったのではないかと私は考えています。