消費税については増税も減税も主張しない、という枝野氏の発言は、その直後からなぜか「減税を言わない」ところだけが独り歩きし始めました。一部の野党支持者は「有権者への裏切り」と騒ぎ出しました。

 笑ってしまったのは、直後に発表された産経新聞のコラムです。「枝野新党結成の憶測」と題したコラムは、枝野発言を「公約を覆す内容」と断じた上で「狙うは党内での主導権奪還か、新党結成か」とあおり立てました。立憲民主党という政党が、枝野氏が多額の借金までして1人で立ち上げた政党であることを忘れたかのような内容には噴き出さざるを得ませんでしたが、つまり「消費税」は保守系メディアにとって、野党分断の材料として「おいしい」存在なのでしょう。

 それはそうと、枝野氏はこの時、トータルで何を言いたかったのでしょうか。私なりにまとめると、おおむねこんな内容でした。

 立憲民主党は自己責任を求める新自由主義的な社会ではなく、お互いさまに支え合う社会をつくることを求めてきた。それが自公政権との対立軸である。支え合う社会をつくるためには公的サービスの充実が求められ、そのためには財源が必要だ。

 にもかかわらず「支え合いの社会」をうたう政党が安易に減税を言えば、「自己責任の社会」と「支え合いの社会」のどちらに向かっているのか分からなくなる。

「支え合いの社会」をつくるためには、まず法人税と所得税、金融所得課税によって、富裕層への増税を行うことで税収を得る。消費税については、現時点で増税にも減税にも言及しない。

 ざっくりまとめると、こんな話であったように思います。

 配信を生で聴いていた私は「なるほど、要するに持論に立ち返ったということだな」という印象を抱きました。

 枝野氏は、問題の2021年衆院選の約半年前に発表した著書『枝野ビジョン』(文春新書)で、時限的消費減税にやや慎重な発言をしていました。あらかじめ「全て否定するものではない」と前置きしていましたが、一方で(1)コロナ禍で経済活動自体が減っている時に消費減税をしても、恩恵が届く業種は限られる(2)逆に「減税待ち」の買い控えが生じて「減税倒産」を生んでしまう恐れがある――などを挙げ、消費減税の効果に懐疑的な主張を展開していたのです。さらに、コロナ禍で困窮する低所得者を集中的に支援するには「減税より給付の方が望ましい」とも指摘していました。