むしろ、退職を前提に動いているときに、「実は来期にお前の昇進を考えてたんだ」「部長もお前のことを評価してたぞ」「好きなポジションに異動させてやる」などと言われたところで、「それならもっと早く言ってくれよ!」と感じるでしょうし、却って組織への信頼度は下がるでしょう。ましてや、「この会社で頑張っていこう!」などとは思えないのではないでしょうか。
つまり、部下が退職意思を固めてしまった時点で、周囲にできる慰留策はもはや存在しないものと考えたほうがよさそうです。実際、中小企業庁の調査においても、就業者の立場における「就業者から見た、仕事を辞めないために(組織側に)必要な取組」としてもっとも多かった回答は「どのような理由があっても退職は避けられなかった」でした。
残念ですが、「退職したい」という部下に対して上司や会社がやるべきは、「余計な邪魔をせず、円満退職をサポートする」ことに尽きます。
慰留を重ねることで「何を今さら……」と部下にネガティブな感情を持たれるのではなく、退職に伴う諸手続をスムーズに進め、残っている有給休暇の消化を勧め、これまでの部下の貢献や努力をたたえ、送別イベントや記念品を贈呈するなどの贈り物などの形で感謝の意を示し、部下が気持ちよく辞めていける環境を作り出すことです。
円満に退職へと至ることで、その後、部下が転職先でクライアントになったり、パートナーとしてなんらかの業務に関わったりする可能性もあります。
その先を考えれば、長期的に良好な関係性を維持し、今後のネットワーク構築にも寄与することができるはずです。
3つの「辞める兆候」に
気づける上司とは
部下が退職を考え始めると、往々にして普段の行動や雰囲気に兆候が出るものです。日々メンバーに接する中で違和感があれば、ぜひ芽を摘んで解決しておきたいところです。それは当人のみならず、組織のためにもなることです。
「辞める兆候」は数多く挙げられますが、「とどまるか辞めるか悩んでいる」段階から「転職を意識し始めた」段階、そして「退職意思を固めた」段階に至るまで、それぞれの心理状態に応じた特徴的な反応が見られることがあります。順に挙げていきましょう。