地方の中小企業で健康経営が成功するケース
山田さんは、「健康経営においては、トップ(経営層)のコミットメントと、従業員が健康経営の施策を重要と感じ、自分ごととして取り組むボトムアップ――その両面のアプローチが必要」と説く(*3)。
そして、健康管理ソリューションサービス「Carely(*4)」を導入している123社が、2024年の健康経営優良法人に、1社が健康経営銘柄に認定されている。
*3 「HRオンライン」の山田さんへのインタビュー 「健康経営」の落とし穴は?企業が忘れてはいけない3つのポイント より
*4 株式会社iCAREが開発・提供する「Carely」は、健康データ(健康診断・ストレスチェック・面談など)を見える化する健康管理クラウドと産業医・保健師などの専門家の知見(人的サービス)の両面から、健康経営の推進に伴走するサービス
山田 ある外資系企業では、従業員一人ひとりに「あなたのことが気にかかっているから、健康診断を受けてほしい」という会社側のメッセージがしっかり伝わっていて、対話ができています。給料の高さだけでは優秀な人材を集められないので、会社を好きになってもらうために、「嫌われないための施策」「好かれるための施策」を行い、施策の効果検証として、エンゲージメントのサーベイを実施しています。たとえば、「嫌われないための施策」「好かれるための施策」は、会社が個人の健康に関する何らかの費用を負担したり、健康増進のためのワークショップを行ったりするというものです。
パフォーマンスが下がっている人がいれば、働きやすさを阻害する原因を徹底的に調査していく企業もあります。「Carely」で取得したデータを細かく分析し、従業員が健康を損ねる前に、弊社が提供する“専門家の知見”も活用されています。
一方で、健康経営がうまくいっていない会社の“失敗パターン”はどのようなものだろう?
山田 うまくいっていない会社は、健康経営に取り組む姿勢がポーズでしかなく、「健康経営マーク」を取りさえすればよいというように、健康経営が“目的化”しています。事業活動と比べて、(健康経営の)優先順位が明らかに低い。そうした会社の経営層には、「自分たちは、会社からそんなこと(健康経営の施策)をしてもらわなかった」と思っている方も多いですね。
また、データの取り方やKPIが間違っているのもうまくいっていない会社のパターンです。たとえば、社内でランニングクラブを設立した場合、参加者の数だけを記録する。たしかに、参加者の増加は、従業員の健康への関心度の高まりと解釈できなくもないでしょう。しかし、「数」ではなく、ランニングクラブの存在で、従業員が「ワクワクする」ことが大切なのです。社内のコミュニケーションの状態や、参加者がクラブ活動で面識のない同僚と知り合えたか、クラブをきっかけに健康に関する新しい取り組みが生まれたか、を調べるべきです。
健康経営といえば、「リソースの多い大企業が先んじている」といったイメージもあるが……。
山田 たしかに、都心部を中心とした大企業は、健康経営が従業員目線になっているケースが見られます。一方、地方の中小企業は事業承継問題などで手一杯という印象もあります。ただ、建設系など、昔ながらの社風と思える企業で健康経営に邁進しているところも少なくありません。そうした会社は経営者が2代目・3代目だったり、30代・40代だったりして、意思決定のスピードが早い。結果、競合他社に比べて良い人材も獲得できているし、事業が好循環しています。健康経営を推進するうえで、経営者の代替わりは大きなポイントになるようです。