クラウドの活用で、優先課題を絞り込んでいく

 健康経営の理想は、「社員が(健康経営の)施策をどう感じているか」までを、経営層や総務・人事部門がデータ(数字)で把握することだが、数字以前の段階にある企業も少なくないだろう。山田さんは、DXの掛け声だけが大きく、データの活用ができていない傾向を指摘する。

山田 総務・人事担当者の多くの方はデータに慣れ親しんでいないケースが見受けられます。しかし、データドリブンな経営は必須であり、「マインドフルネスが良さそうだから、やってみよう」といった場当たり的な施策は、実効性が低いです。

 データを取り、それをもとに自社の従業員の傾向を知り、いま何が必要なのかを考え、適切なKPIを設定して施策を行い、さらにデータを取って効果検証するサイクルが重要です。それが、データドリブンの経営であり、総務・人事部の仕事であり、健康経営としてやるべきことです。

 そして、その際に有効なのが“クラウドの活用”です。クラウド上で、ビッグデータとして情報を持つことで、企業は個人を特定することなく、さまざまなニーズに対して施策を打つことができます。たとえば、子宮頸がんにかかった女性がいるとしましょう。多くの人は、そのことを会社や産業医には話しづらいですが、クラウド上で個人を特定せずにリスクを把握する仕組みがあれば、検診の受診勧奨や予防の啓発などのアプローチができる。匿名性が守られ、会社の支援できる領域が広がるのです。

 まずは、他社と比較可能な、離職者数・離職率・求職者数・求職率・労働災害の数といったデータを取ること。ただ、これらの数値だけでは、その会社ならではの課題がはっきり見えないため、外部の専門家とともに、部門ごとの細かい傾向や離職との相関関係などのデータを分析して、優先課題を絞り込んでいく必要があります。

従業員目線の“健康経営”こそが、これからの時代に不可欠な理由

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山田洋太さんインタビュー(「HRオンライン」2021年10月13日配信)

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産業医・労働衛生コンサルタントとして就労者の現場の声に精通し、ITを活用した健康管理ソリューションサービス「Carely」を提供する株式会社iCAREの山田洋太氏(代表取締役CEO)に、人事戦略としての「健康経営」の課題について話を聞いた。