トヨタ自動車の佐藤恒治社長は、5月8日に開かれた2024年3月期連結決算会見で、プラグインハイブリット(PHEV)にシフトしていく姿勢を鮮明にした。背景には、中国で電気自動車(EV)の価格競争が激化していることや、北米でEV販売が減速していることがある。EVへの需要が停滞する中で、ハイブリット車の販売が伸びているのだ。トヨタがPHEVの生産・販売を強化する背景と狙いに迫る。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)
150万台のEV販売目標はPHEV含めて達成
営業利益5兆円超えは日本企業として初
トヨタが8日発表した2024年3月期連結決算は、本業のもうけを示す営業利益が、前期比96.4%増の5兆3529億円となった。円安ドル高効果とハイブリット車(HV)の販売が業績を押し上げた。SMBC日興証券の集計によると、営業利益が5兆円を超えるのは、日本の上場企業として初となる。
純利益は、前期約2倍となる4兆9449億円で、ソフトバンクグループが21年3月期に計上した4兆9879億円に次ぐ水準となった。
佐藤恒治社長は決算会見で「今回の実績は、長年のたゆまぬ商品を軸とした経営と、積み上げてきた事業基盤が実を結んだ結果である」と好業績を振り返った。為替差益が6850億円、HVの販売好調や値上げ効果が2兆円、それぞれ営業利益を押し上げた。
24年3月期の販売台数の実績を見ると、トヨタ・レクサスが1030万台で、電動車が全体の37.4%に当たる385万台だった。種類別では、HVが前期比32.1%増の359万台と業績をけん引。プラグインハイブリット車(PHEV)が同60.3%増の14万台、電気自動車(EV)が同3.1倍の11万台と続いた。
トヨタのHVが好調なのは、日系を含む大手自動車メーカーと比べて、トヨタのラインアップが豊富なことにある。
これまで自動車業界の話題の中心だったのはEVだった。「アーリーアダプター」と呼ばれる流行に敏感な消費者や、クルマを複数台保有する富裕層などに支持され、世界的に販売が拡大した。ただ、販売が一巡すると需要が減速。ホンダや日産自動車など日系自動車メーカーなどと比べて燃費性能に優れたHVを販売するトヨタが北米を中心に支持され、販売台数を伸ばした。
宮崎洋一副社長は、北米でHVが人気を集めていることについて、「プリウスの発売以降、HVがメインプレーヤーとして認知されてきた。低燃費だけではなく、加速性能なども改善している」と分析する。
今回の会見で佐藤社長は、HVの販売が好調な一方で、世界的にEVの販売スピードが減速していることを踏まえ、当面は、PHEVの販売を強化する方針を明らかにした。
佐藤社長は「PHEVは、EVに内燃機関が付加されているものだ。そういう意味で、PHEVはEVの属性に含めていいと思う」と説明。トヨタは26年にEVを150万台販売するという目標を掲げていたが、今回、EVに加えてPHEVを同販売目標に含めると明言した。EV販売目標を事実上、引き下げたともいえる大きな方針の転換である。
なぜ、今回PHEVシフトともいえる姿勢を示したのか。次ページでは、その背景について迫る。