腸内の環境を良好に保つ生活をする「腸活」。とくに食は腸内環境と深く関わっており、食物繊維を多く摂ることが推奨されている。しかし、日本人の多くが食物繊維をうまく食事に取り入れられていないという。長年、腸内細菌と長寿に関する研究に携わっている、京都府立医科大学の内藤裕二氏に話を聞いた。(清談社 真島加代)
日本人には食物繊維が
圧倒的に足りていない
健康志向の高まりから「腸活」がブームだ。食品素材メーカーの太陽化学が行ったアンケート(※)によると、76.1%の人が、腸内環境を整えるために意識的に食物繊維を摂取していると回答している。
「かつて食物繊維は、体内で消化されずエネルギーにもならないので『栄養素として価値がない』と考えられていました。しかし、現代では研究が進み、乳酸菌などの菌類と同様に、食物繊維は腸内環境の改善や生活習慣病の予防につながる栄養素として注目されています」
そう話すのは、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授の内藤裕二氏。先のアンケートを見ると食物繊維に関心が集まっている印象を受けるが、内藤氏は「食物繊維の本質的な価値は理解されていない」と指摘する。
「意識が高まっているといっても、日本人のほとんどが食物繊維不足の状態です。『日本人の食事摂取基準(2020年版)』の食物繊維摂取量の目安は、成人男性で1日21g以上、成人女性は1日18g以上となっています。しかし、世界保健機関(WHO)が推奨している食物繊維の摂取量は、10歳以上で1日25g以上。日本は、目標摂取量でさえ世界基準に達しておらず、実際の摂取量は20gにも満たない人がほとんどです」
腸活ブームとは裏腹に、日本人の食物繊維の摂取量は圧倒的に少ないという。また、食物繊維の種類にも目を向けていない人が多い、と内藤氏。
「食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。腸内環境の改善が目的ならば、これらのうち、腸内で発酵して有用菌(善玉菌)のエサになる『発酵性食物繊維』を選ぶのがベストです。具体的には、発酵性食物繊維が豊富な豆類や海藻類を食べる必要があります。しかし、近年、これらの食材を好んで食べる日本人は少なくなっています」
和食中心の時代は、豆腐などの大豆製品やわかめなどの海藻類は、食卓の定番だった。しかし、若い世代を中心に食生活の欧米化が進み、発酵性食物繊維が豊富な食材を食べる日本人が減少。その結果、腸内細菌のバランスが崩れ、排便にトラブルを抱える人が増加しているという。
「実は大腸や小腸に疾患がないにもかかわらず、便秘や下痢、腹痛などに悩まされる『過敏性腸症候群(IBS)』の人は、そうでない人に比べて労働生産性が低く、年間で約128万円の経済的損失を出しているともいわれています。現代人の腸内環境の悪化は食物繊維不足も要因のひとつなので、年齢に関係なく対策をする必要があるでしょう」
北海道情報大学による『すこやか健康調査』(※※)では、体のだるさやイライラ、胃腸の不調を指す「軽度不調」を抱えている人々は、食物繊維やビタミン・ミネラル類の摂取量が低いという結果も報告されている。食物繊維の不足は、日常生活にも悪影響を及ぼすのだ。