『水星の魔女』『梨泰院クラス』『銀の匙』…「起業もの」はなぜ受けるのか?写真はイメージです Photo:PIXTA

起業物語がアニメや漫画、ドラマなどで大々的に流行している。昨年大きな話題を呼んだ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』もそうだ。なぜここまで起業物語が流行しているのか?筆者によれば、その背景には、リアル社会で進む、新自由主義的な変革があるという。※本稿は河野真太郎『はたらく物語: マンガ・アニメ・映画から「仕事」を考える8章』(笠間書院)の一部を抜粋・編集したものです。

歴代ガンダムの中でも珍しい
女性主人公による学園モノ

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の主人公は水星育ちの少女スレッタ・マーキュリー。そして、もう一人の主人公といってもいい存在感を放つのが、スレッタの「婚約者」となるミオリネ・レンブランという少女です。

 物語は、スレッタがアスティカシア高等専門学園に編入するところから始まります。アスティカシアはベネリットグループという企業コングロマリットが運営する学校で、モビルスーツのパイロットをはじめとして、その開発者や経営者を教育しています。ミオリネの父親は、そのベネリットグループの総裁であるデリング・レンブランです。

『水星の魔女』の世界では、数多くの企業が宇宙に進出し、巨大な経済圏を構築しています。その中で、過去のガンダムシリーズでも描かれてきたように、地球と宇宙の間での分断や軋轢が描かれていきます。『水星の魔女』では、地球居住者はアーシアン、宇宙居住者はスペーシアンと呼称されており、基本的にアーシアンはスペーシアンに抑圧されています。

 もうひとつ、モビルスーツの「ガンダム」についての独自の設定を確認しておく必要があります。前日譚である「PROLOGUE」で描かれるのですが、この世界における「GUND ARM(通称ガンダム)」とは、かつてヴァナディーズ機関とオックス・アーク・コーポレーションが共同開発したもので、GUNDフォーマットというシステムを搭載したモビルスーツです。GUNDフォーマットは元々、ヴァナディーズ機関が研究・開発した身体拡張技術GUNDを軍事転用したシステムであり、GUND自体は宇宙環境には耐えられない人間の身体や機能を補うための技術として構想されていました。

 ところが、モビルスーツ開発評議会、とりわけモビルスーツ開発の秩序と倫理を守ることを目的とする監査組織の統括代表を務めるデリングは、このガンダムの技術が、操縦者の人間に害をもたらし、悪くすると殺してしまうことを問題視しました。大量のデータが人体に流入する(デ―タストームと呼ばれています)ため、操縦者への異常な負担があるのです。そして、モビルスーツ開発評議会はガンダムは非人道的な兵器であるとして開発を禁止された、というのが、本編の前史としてあります。

逆境を打開する手段として
使われる「起業」の意味

 スレッタが編入したアスティカシア高等専門学園では、学生たちがモビルスーツを用いて“決闘”を行うルールがあり、スレッタと彼女のモビルスーツであるエアリアルは決闘で勝利を重ねていきます。スレッタは、企業側が開いたパーティーに参加し、そこでエアリアルは禁止されているガンダムではないかという疑惑がかけられ、エアリアルに廃棄処分が下されそうになります。