そこで、ミオリネは一計を案じます。彼女はエアリアルを守るため、生命の安全を前提にガンダムの管理・運用を目的とする会社の発足を提案し、投資をとりつけるのです。ミオリネとスレッタは、生徒たちと株式会社ガンダムを立ち上げ、GUND本来の目的であった医療技術としての開発に乗り出します。

 Season 1 のこの段階まででは、ミオリネは起業をすることによってある種の成長をなしとげると言っていいでしょう。彼女は当初は父親の決めたルールとレールをただ否定して、アスティカシア高等専門学園から地球へと脱出しようと試みます。

 起業をして、アーシアンの学生たちと仲間になって事業を進めていくミオリネは、そのような「否定」だけを動機とするのではなく、新たな仲間たちと一緒に事業を成功させようとする積極的な行動に力を注げるようになります。起業によって、ミオリネは大きく成長していくように見えます。

 ところが、Season 1 の結末には不穏な展開が待ちかまえています。先述の「御三家」の一角であるグラスレー社CEOの養子であるシャディク・ゼネリが裏で手を引いた地球の反スペーシアン武装組織「フォルドの夜明け」が襲撃事件を起こすのです。それによってグエルの父は死亡(グエルとお互いに相手がわからないまま交戦状態になり、結果的にグエルは父を殺めてしまいます)、ミオリネの父デリングも重傷を負います。

 スレッタの乗るエアリアルの活躍で「フォルドの夜明け」は撤退しますが、Season 1 最終回のポストクレジットは大きな話題を呼ぶものになりました。そこでは、「フォルドの夜明け」の兵士に見つかって殺されそうになったミオリネを守るために、スレッタがエアリアルの手でその兵士を殺めるのです。ミオリネが血みどろの手を差し伸べる笑顔のスレッタに対して、恐怖の表情で「人殺し」と呟き、Season 1 は幕を下ろします。

新自由主義時代の成長物語の
パターンとして「起業」がフィットした

 この結末は、残虐性によってセンセーショナルな話題となったように見えますが、私はこの場面はある種の必然性を持っていると考えていますし、その残虐性にもちゃんと意味があると考えています。そのことを理解するためには、ここまでの物語において起業が成長物語となることの意味を、広い視点で捉え直す必要があるでしょう。