「プーを助けてやれよ!」映画館で子どもが叫んだ納得の理由写真はイメージです Photo:PIXTA

映画『プーと大人になった僕』『パディントン』。この二つの映画には共通して、人ではないキャラクターが社会問題と闘う姿が描かれている。2匹のクマが闘っている相手は一体、何なのか。二つの映画から読み取れる大人へのメッセージとは。本稿は、飯田朔『「おりる」思想 無駄にしんどい世の中だから』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

スペインの映画館で観た
『プーと大人になった僕』

 2018年の秋、スペインの地方都市サラマンカの映画館で『プーと大人になった僕』(2018年)を見て以来、この映画のことがずっと気になっていた。

 ぼくはここ数年の日本の雰囲気が嫌になり、30歳手前でスペインへ行き、サラマンカという街で1年間スペイン語を勉強しながら暮らした。

 サラマンカは人口14万人程度の小さな街だが、シネコンがふたつとミニシアターがひとつある。映画料金が8ユーロのところ、水曜日は映画サービスデーで4ユーロの割引価格で見られ、『プーと大人になった僕』(以下『大人になった僕』)を見たのも水曜だったのを覚えている。

『大人になった僕』は、言わずと知れた小説『クマのプーさん』を原作としたディズニーの実写映画だ。小さな頃プーと遊んで育った少年ロビンが大人になり、プーのことを忘れ、毎日会社で働きすぎているところに、久しぶりにプーがあらわれる。ロビンがプーとの再会をきっかけに働きすぎの生き方を見直す物語だ。

大人になったロビンに
「プーを助けてやれよ!」と叫ぶ子供

 サラマンカでこの映画を見たときにちょっと面白いことがあった。

 映画館で席につくと、後ろの列に何人か子どもを連れたスペイン人家族が座ってきた。映画の始まりでは、プー(声:ジム・カミングス)と再会した大人のロビン(ユアン・マクレガー)が、いなくなった森の仲間たちを一緒に捜してほしいというプーの頼みを聞かず、冷たくあしらう。ロビンは仕事のことで頭がいっぱいなのだ。

 と、そこまで映画が進んだとき、ぼくの後ろの席の小さな男の子が、「Ayudale!(プーを助けてやれよ!)」と画面のロビンに向かって何度か呼びかけるのが聞こえたのだ。ぼくはおかしくて、笑いそうになった。

 画面のユアン・マクレガー演じる大人のロビンが、観客の男の子に叱られているのは、何かこの映画を象徴している気がする。

 この映画は、子ども向けのキャラクター映画なのに、なぜか残業や休日出勤、有給休暇など労働問題のテーマが盛り込まれているのが面白い。

 ぼくは高校生のときから、日本ではうまく働けないという実感があり、スペインへ行くまでは実家に住みながら時々塾講師をしたりして、日々だましだまし東京で暮らしてきた。