日本を脱出してスペインへ行った理由のひとつとしては、いまの日本の職場が一般的にあまりにも働く時間が長く、労働時間の割に給料が安いと思えたことがある。また、一方のスペインにはいまだにシエスタ(昼休憩)の習慣があるなどと聞き、現地の人々の暮らしぶりに興味を持ったことも理由のひとつだった。

 そんなスペインで鑑賞した『大人になった僕』は、まるでいまの日本人に向けて作られた映画のような気さえした。

人間ではないキャラクターが
世界の問題に勇敢に立ち向かう

 それから数カ月が経ち、留学生活は終わり、2019年の1月にぼくは日本に帰国し、東京の実家に戻った。

 戻ってから間もないときに、今度は、X(旧Twitter)で評判を聞き気になっていたもうひとつの映画、これまたクマのキャラクターが出てくる実写映画『パディントン』(2014年)を見た。実家の家族や友人などの間でなぜか前年公開されていた『パディントン2』(2017年)が大好評で、ぼくもAmazon Prime Videoを使い、実家のテレビで『パディントン』と『パディントン2』を見てみた。

 これまた、たしかに面白い……。『パディントン』(以下、ことわりのない場合1作目と2作目を合わせて『パディントン』と表記する)は、ペルーからロンドンへ「移民」として渡ってくる若いクマの物語で、現実のEUの難民危機や差別の問題が反映されたテーマが扱われ、こちらもなぜかキャラクターものに社会派的な要素が入っている。

『大人になった僕』と『パディントン』は別々の映画だけれど、何かあるぞ、と思えた。どちらも「クマ」と「社会問題」という組み合わせが意表をついていて面白いし、キャラクター映画としても、クマたちが妙に「いきいき」していることに新しさを感じた。

 日本で働けず、スペインへ一度逃げ出したぼくにとっては、このふたつの映画は、やけに切実なものがあり、また、いまの日本の社会や世界の問題について考えるにあたって、手がかりをくれる作品とも思えた。

『大人になった僕』と『パディントン』は、どちらも、クマのキャラクターが人々の前にあらわれ、いまの世界の問題に向かって果敢に立ち向かう、という不思議な構図が共有されている。人間じゃなく、なぜかキャラクターの目線に比重が置かれ、キャラクターたちの行動が差別や労働問題の乗り越えにつながっていく。