ホームズの殺害を計画するも……

医師が本業、作家は片手間!?コナン・ドイルが「名探偵ホームズ」を仕方なく書いたワケこじらせ文学史 ~文豪たちのコンプレックス~』(ABCアーク) 著:堀江宏樹 価格:税込1650円

 コナン・ドイルは、眼科医の資格がないのになぜか眼科を開業した。当然、患者は集まらず、経営に失敗。それゆえ妻子を養うべく、ホームズものの執筆にいそしむ日々が始まった。

 しかしホームズの生みの親でありながら、「二流文学」探偵小説でしか稼げない自分に納得できないコナン・ドイルは「文学的にレベルが低いと見なされているのではないかと思った。そこでわたしの決意表明として、主人公の命を絶つことに決めたのだ」と、青臭い「殺意」を固める。

 それでも1年以上迷った上で、1893年に発表された『最後の事件』のラストでシャーロック・ホームズを大悪人・モリアーティ教授と相打ちさせるかのように、「死の淵」と呼ばれたスイス・ライヘンバッハの滝壺に落として殺害、シリーズを打ち切ることに成功した……かのように見えたが、やはり生活資金の問題で、殺したホームズを無理やりに復活させ、シリーズ再開に踏み切らざるをえなくなった。

 最終的にホームズを書く苦しみを、スピリチュアルの世界に埋没することで癒やそうとしたコナン・ドイルは、イギリスを代表するオカルティストになってしまった。晩年は『エクトプラズムの謎:絶対的証拠』『妖精物語:実在する妖精世界』といった怪しげな本ばかり出版しようとして、編集者を困らせている。

(文豪こぼれ話)ホームズばりの推理力

 コナン・ドイルは正義感が強く、家畜傷害事件で有罪の判決を受けたインド人青年の無実を、ホームズばりの推理で証明したことがある。また、裕福な老婦人の殺害事件ではユダヤ系男性が逮捕されたが、この時代特有の反ユダヤ主義に流されがちな世論に立ち向かい、女中による証言がいつわりであることを見抜いて判決を覆した。