理屈っぽい前置きが長くなったが、ここまでの話を頭の隅に置いて、親友(あるいは親友に匹敵するような個体)に「会った時にとび跳ねて小刻みに手を振りながら挨拶をする」理由を考えると、以下のようになる。

 相手と親友であり続けることが、自分の生存・繁殖に有利になるのだから、親友に会った時、「親友であること」が長続きするような行動をするように、われわれの脳はプログラムされているはずだ。そういう脳を設計する遺伝子が生き残り、増えていく可能性が高いだろう。

オーバーな動きで
相手からの信頼を得る

 それはどんな行動か? 状況にもよるが、基本的には相手に自分は「うれしい」とはっきり伝わる動作だろう。すなわち「とび跳ねて小刻みに手を振る」動作がそれだ。

 別の見方をすると、「私はあなたのために、たくさんのエネルギーを消費することを厭わず、こんな行動をしているのよ」という気持ちが伝わるような、動きのある、よく目立つ行動が適しているだろう。

 質問の最後に、「私自身もとび跳ねていると言われたことがありますが、自覚はありませんでした」とあるが、われわれの脳が、自分(脳も含め自分の構造を設計し作り上げる遺伝子)が繁殖しやすくなるようにプログラムされていることを示唆している。

 イヌが久しぶりに、いつも優しく接してくれ遊んでくれる飼い主に出会った時、動きが活発になり、飼い主に飛びついたり周辺をぐるぐる走り回ったり、いわゆる「はしゃぐ」行動をとるのは、多くの人が知っている現象だろう。

 久しぶりに会った親子や兄弟姉妹のイヌ同士についても、同じようなことが起こるのは容易に想像できる。イヌの種類や状況にもよるだろうが、私自身もそういった光景を見たことはある。

 互いに、協力する有効な関係を維持するためには、ヒトの場合で論じたことがそのまま当てはまるのではないだろうか。つまり、自分が相手に友好的であることを、しっかり伝える意味がある。

 ただし、そういう行動が顕著に見られるのは、(1)他個体を識別して記憶しておく能力を備えた動物、(2)個体同士が、互いに密接に協力して、自分たちに有益な行動を成し遂げる習性をもっている動物、(3)少なくともある期間は明らかに一方が、あるいは両方が相手に有利になる行動をするような親子や兄弟姉妹の関係にある個体同士、こういった条件が組み合わさっている場合ではないだろうか。

 そうでなければ、そういう進化は進まないだろう。