スーパーのお菓子売り場で、欲しいものを買ってもらえずに脚をバタつかせて“地団駄”を踏む子どもを見たことがあるだろう。それは、日常のありふれた光景だが、大人になると一転して地団駄を踏まなくなるのはなぜか。動物行動学者・小林朋道氏のSNSに寄せられた質問から、地団駄の謎を解き明かす。※本稿は、小林朋道『モフモフはなぜ可愛いのか』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。
教えてもいないのに
地団駄を踏む子どもたち
A 動物行動学の行動のカテゴリーの中に「意図行動」と名付けられたものがある。
たとえば、ヒトの場合で言えば、話に飽きて椅子から立ち上がってその場を立ち去ろうとする行動の前には、しばしば、両手を椅子について腰を少しだけ上げるような行動が現れる。
そのような意図行動には、意図される本格的な行動を、そのときすぐに行ってしまってはまずい場合、まずは軽く、自分の意図を他個体に示すような意味があるのではないかと推察されている。
意図行動は、ヒト以外の動物でもよく見られ、たとえば、ある鳥の群れが、ある場所から飛び立って別の場所に移動する際、まずは、数羽の鳥が飛び上がるような姿勢をとる(足を曲げてジャンプするような動作をする)。やがて、その意図行動を行う個体が増えていき、あるとき群れの全個体が飛び立ち、別な場所への移動がはじまる。
質問に対する仮説的答えを言えば、地団駄は、意図行動だと考えられる。
では、どんな本格的行動の意図を示す行動か。
それはおそらくは相手を踏みつけるような攻撃的行動だと推察される。つまり、地団駄をする個体は、怒っているのである。
地団駄は、最近の事情はよく知らないが、一昔前は、漫画やアニメでよく使われていた。
質問をくださった方(お母さん?)の文章からは、子どもさんがどういった状況で地団駄を踏まれたかは書かれてなかったが、おそらく、子どもさんがひどく不快に感じられることがあって地団駄を踏まれたのではないかと想像する。
きっと、お母さんは、漫画やアニメで地団駄を見ておられ、お子さんが実際に地団駄をするのを見て、あーーっ、ほんとなんだと感慨に浸られたのだろう(感慨に浸られるのもよいが、地団駄を踏んで怒っておられる子どもさんへのケアーのことも忘れないでいただきたい)。