秋田犬写真はイメージです Photo:PIXTA

現在の日本は小型犬全盛の時代を迎えており、しつけなどの手間や余裕のある飼育環境などが必要な大型犬は避けられる傾向にあり、危機的状況を迎えているという。大型犬が幸せに生き、未来にかけて繁栄していくにはどうすればいいのか。本稿は、林 良博『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)の一部を抜粋・編集したものです。

大型犬が迎えている
深刻な危機の時代

 犬の大きさの点でいうと、日本ではとくに大型犬が生きづらく、子孫を残しづらい、深刻な危機の時代を迎えているといえます。

 一般的に成犬での体重が25キログラムないし30キログラム以上となる犬は大型犬に分類されます。セントバーナードやグレート・デーン、ゴールデン・レトリバー、それに日本犬では秋田犬や土佐犬などは大型犬に分類されます。私の家族の一員だったラブラドール・レトリバーのペンテルやメイレンも大型犬でした。

 犬を飼ったことのない方々は、散歩中の大型犬が近づいてくると、その大きさゆえに少し身構えてしまうかもしれません。けれども、たいてい大型犬の性格はおおらかです。仔犬たちへの面倒見のよさがあります。とくにゴールデン・レトリバーやラブラドール・レトリバーは、反抗期を迎えずに成長していくタイプであり、パートナーの人間に反発することはめったにありません。「気は優しくて力持ち」をまさに体現した犬たちといえます。

 ほかの犬たちや人に反抗的になりやすい大型犬もいなくはありません。そうした性格も、かつて人間によって闘犬用などとしてブリーディングされたためのものです。日本を代表する犬種の一つである秋田犬にも闘犬としてブリーディングされていた過去があり、その「名残り」があるといわれています。

 日本民俗学の創始者である柳田國男は52歳のとき、子ども時代以来となる犬の飼育を果たしました。世田谷区成城の一軒家に引っ越したことで犬を飼えるようになり、秋田犬を迎え「モリ」と名づけました。ある日、家族の一人が庭を走り回っていてなにかの拍子に倒れたり寝たりすると、それまでじっと様子を見ていたモリがわっと向かっていったと述べています。

 犬の祖先である狼は、長い距離にわたり獲物を追いかけて、最後に倒れた獲物に襲いかかるといった本能をもっています。子孫である秋田犬にもそうした本能的な行動が残っており、本能的に襲いかかるスイッチが入ったという可能性はあります。