がんばるポーズの女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「頑張る」ではなく「顔が晴れる」と書く「顔晴る」表記は、2000年代中頃から使われだした。企業や店舗にとっては業績向上に向けた、スポーツ選手にとっては苦境を脱するための“強壮剤”として機能している。一方では、現代人をむしばむ“努力至上主義?をヒラリとかわす、魔法の言葉でもあった。※本稿は、神戸郁人『うさんくさい「啓発」の言葉 人“財”って誰のことですか?』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「頑張る」と思いきや
「顔晴る」って何?

「どんなときも、諦めずに頑張れ」。これまでの人生で、そう言われた経験がない人を探すのが難しいくらい、よく耳にするフレーズです。そんな「頑張る」という言葉を、「顔晴る」と言い換えた表記を目にしたことはないでしょうか?

 仕事に趣味、家庭生活や人間関係。あらゆる場面において、「よりよい状況をつくりだすこと」を求められるのが現代社会です。「顔晴る」の使われ方を調べてみると、常に努力を強いられる中、心の「ガス抜き」を願う人々の胸の内が見えてきました。

 筆者が「顔晴る」を知ったのは、8年ほど前のことでした。ある日訪れた居酒屋の店内で、こんな風につづられた貼り紙を見かけたのです。

「毎日顔晴るあなたに、最高の休息時間をお届けします」

 瞬間的に、脳内でたくさんの「?」が飛び回りました。それからしばらくして、新聞を読んでいたときのこと。スポーツ面の記事に目を通すと、また「顔晴る」と書かれているではありませんか。しかも、一度や二度ではない。意外とメジャーな表現なのか……と驚いたものです。

 確かに、どこかポジティブな印象を受ける言葉ではあります。好まれるのも不思議ではないでしょう。でも、なぜ市民権を得たんだろう?筆者の中で、にわかに興味が湧いてきました。

 新聞に載るほど普及した言葉なら、他のメディアでも使われているかもしれない。そう考え、新聞や雑誌などの記事検索サービス「日経テレコン」を使うことにしました。

 今回は一般紙やスポーツ紙、ビジネス誌などで確認できた、70点ほどの代表的使用例を収集、分析。その結果、「顔晴る」が紙上に現れ始めるのは、2000年代中頃だと分かりました。

 例えば、食品卸大手・日本アクセス中部支社、後藤征一支社長(当時)の、こんなコメントを報じています。

 誰もがよく「頑張る」という言葉を使うが、何を頑張るのか。私の頑張るという文字は「顔晴る」。「顔が晴れる」と書く。社員全員が晴れやかになる仕事をしていきたい。
――2005年1月18日付 日本食糧新聞

「顔晴る」は目的達成に向けた
企業の“強壮剤”でもあった

 記事によれば2004年、自然災害・経済情勢の悪化などのため、食品業界全体が苦境に陥りました。だから、地域の小売業者との連携を強めつつ、事業規模も広げなければならない……。後藤さんは、そう語ります。

 同紙は2005年7月18日付の紙面においても、後藤さんの発言を紹介しています。