「頑張れば自然と笑みがこぼれ、晴れやかな笑顔を交わすことができる」として、支社の経営基盤を固める上でのキーワードに「顔晴る」を挙げました。

 2015年7月24日付日刊工業新聞の、損保ジャパン日本興亜(当時)幹部へのインタビュー記事も取り上げてみましょう。

 記事によると同社では、本社内にできた新部署のメンバー向けに、「顔晴る」のメッセージを採用。「意思統一を図る目的で、現場力向上のため」「常に表情を明るく、組織全体が前向きになれるように」との思いが込められているといいます。

 事業の継続と、働き手の成長。企業活動においては、それらの目的を達成する上で、「強壮剤」として使われてきた言葉であると捉えられるかもしれません。

アスリートが「顔晴る」を
多用する理由とは?

 そして「顔晴る」は、スポーツの話題とも相性が良いと言えそうです。今回調べた用例全体の、4割近くを占めています。

 特によく言及されていたのが、2010年代の新聞記事に掲載されていた、亜細亜大学硬式野球部・生田勉監督(当時・2023年6月に退任発表)のエピソードです。障害がある長女が、その笑顔によって人生を切り開いたことから、「顔晴る」をチームの目標に。2015年には大学野球の明治神宮大会で、2年ぶりの優勝を果たしました。

 教え子にまつわる情報も、頻繁に登場しました。同大出身で阪神タイガースの板山祐太郎選手(現・中日ドラゴンズ)は、生田監督の教えを支えにしていると語ります。

「難があるから“有り難う”。顔が晴れると書いて“顔晴る(がんばる)”。うまくいかなかった時にそういう気持ちになれるようにしたい」
――2018年5月13日付 デイリースポーツ

 上記の記事は、板山選手が成績不振で2軍への降格を経験したことに触れつつ、「顔晴る」を座右の銘としていると伝えます。

 つらいときこそ、爽やかに笑い、前を向く。スポーツ記事では、そんな文脈で、「顔晴る」が使われることが多いようです。しかもプロ・アマの区別や、種目の枠を超え、様々な選手が異口同音に用いていました。アスリートたちは、常に競争にさらされます。結果が出せなければ簡単に地位を失う厳しい世界です。たゆまぬ努力により、自らの限界を更新すべき状況で、「負ければ後がない」という不安と闘わなくてはなりません。