記憶写真はイメージです Photo:PIXTA

昨日食べたもの、子供の頃の思い出など、我々はさまざまな記憶を持っている。今でも鮮明に覚えているという記憶もあるが、実はそれはオリジナルなものではなくなっているのだとか。脳科学の専門家が知られざる「記憶」の真実について語った。※本稿は、毛内拡『「頭がいい」とはどういうことか――脳科学から考える』(ちくま新書、筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

過去のエピソード、体が覚えている動作…
記憶には種類がある

 記憶は、知識的なものだけではありません。私は子供の頃、家族で話をしていて「あの時、あれ食べたよね」なんて親も忘れていたようなことを覚えていて、「そういえばそうだった。よく覚えているね」と、驚かれたこともありました。最近は、さっぱり覚えていないのですが……。

 記憶力のいい人は、さまざまなエピソードやその時に感じた気持ちまで漏れなく覚えているものです。このような「あの時、ああだったよね」という類の記憶は、エピソード記憶と言います。

 このように記憶にもいろいろな種類があります。ここで記憶の分類について少し解説しましょう。

 まず、大きな分類として「短期記憶」と「長期記憶」があります。短期記憶とは、ワンタイムパスワードのような数字を一時的に覚えて入力し、用が済んだらすっかり忘れてしまうような記憶です。一昔前は電話する際に番号を覚えておくと説明できたのですが、最近では電話番号を覚えておく必要はほぼなくなりましたね。

 短期記憶が保持できるのは、2~3分程度と言われています。「あれ、自分は今何しようと思ったんだっけ」という類の物忘れは、この短期記憶の一時的な欠落です。

 一方で、ずっと覚えている記憶は、長期記憶と言います。長期記憶にもさまざまな種類があって、例えば、歴史の年号や数学の公式のように普遍的事実などに関する記憶は「意味記憶」と呼ばれます。

 一方、「あの時ああだったなあ」と思い出す記憶が「エピソード記憶」です。これらの記憶は、言葉で表わせるため「陳述記憶」とか「宣言的記憶」などと言われることもあります。

 記憶の中には、言語で表すことが難しい記憶もあります。例えば、しばらく自転車に乗っていなくて、恐る恐る乗ってみたら意外と大丈夫だったという経験はないでしょうか。

 これは、“体が覚えている”からに他なりません。このような記憶は、「手続き記憶」と呼ばれています。

 言語で表せないので、「非陳述記憶」とか「非宣言的記憶」と言うこともあります。あまり聞き慣れない言葉ですが、「潜在記憶」と言えばその意味が取りやすいのではないでしょうか。