脳の記憶容量は何テラバイト?
記憶は記録ではない

 潜在記憶は非意識的に生じるもので、例えば、ある特定の音が鳴ると特定の反応が起きるといった定型反応パターンもあります。有名な例には、ベルの音を鳴らした後にエサを与えることをイヌに繰り返すと、やがてベルの音を聞いただけでよだれが出るようになるという「パブロフのイヌ」があります。

 これは古典的条件付けやレスポンデント条件付けと言ったりして、学習の例で挙げられますが、これも潜在記憶の一種と言っても差し支えないでしょう。

 また、「たこ焼き、道頓堀、吉本新喜劇」を見た後に「大○」という文字をみると、どういうわけか「阪」という漢字を入れたくなりましたよね。別に大塚でも大漁でも構わないはずです。これは「プライミング記憶」と言って、直前に見聞きしたものが記憶の想起に影響を与えるという記憶の一つの例です。

 一方で、先にご紹介した陳述記憶は言語化できますから、意識して記憶を思い出せるので、潜在記憶と対比させて「顕在記憶」と言うこともあります。

 記憶というと、パソコンのメモリと対比されがちですが、パソコンにも一時的に蓄えておくランダムアクセスメモリ(RAM)と長期的にデータを保持しておくハードディスクがあります。

 私が学生の頃はCD-R全盛期ですが、記録容量はたったの700メガバイト(MB)。4.7ギガバイト(GB)のDVD-Rが登場して、かさばりましたが大変重宝しました(ギガはメガの1000倍)。さらにUSBのフラッシュメモリが登場して、卒業記念で、当時1万円はしたであろう1GBのフラッシュメモリを大学から贈られて感動したのを覚えています。

 しかしそれから数カ月後には、3や5ギガが当たり前になって、1GBのフラッシュメモリは数百円で買える時代になってしまいました。今や1GBでは動画一つも保存できません。

 今ではみんな当たり前のようにテラバイト(テラはギガの1000倍)のポータブルフラッシュメモリ(いわゆるUSBメモリ型SSD)や、SDカードをいくつも持っています。さらにクラウドサービスと契約すれば、データを持ち歩く必要はありません。

 そこでよく話題になるのが、「脳の記憶容量は何テラバイト?」というものです。調べてみるとさまざまな説があり全くわかりませんでした。それもそのはず、脳の記憶容量というのはパソコンのハードディスクとは全く質の異なるものだからです。脳の可能性は無限大ということではなく、記憶は単なる記録とは全く異質なものなのです。