愚痴の多い人は、けっして嫌なことばかりを経験しているのではなく、良いことも経験しているのに、嫌なことばかり思い出してしまう心のクセを身につけている。そのことは前回説明したが、これは落ち込みやすい人にもあてはまる。落ち込みやすい自分を変えたい。そう思う人は、記憶とのつき合い方を変える必要がある。そこを変えるだけで、落ち込みにくい自分に生まれ変わることができるのだ。(心理学博士、MP人間科学研究所代表 榎本博明)
落ち込みにくい人は、ポジティブな記憶で
ネガティブ気分を緩和している
嫌なことを思い出せば気分が沈む。気分が沈むと、その気分になじむ記憶が検索され、嫌なことばかり思い出す。そして、ますます気分が落ち込む。こうした悪循環を断ち切る方法として、ポジティブな記憶を意識的に検索して引き出すというやり方がある。
ネガティブな気分のときにポジティブな記憶を思い出すことで、ネガティブ気分が緩和されることは、心理学実験によって科学的に実証されている。
落ち込みにくい人は、無意識のうちにこうした心理メカニズムを利用しているのである。逆に言えば、こうした心理メカニズムを利用しているから落ち込みにくい人になっているわけだ。
うつになりやすい人は、ネガティブな気分のときにネガティブな出来事を反芻(はんすう)する傾向がある。反対に、うつになりにくい人は、ネガティブな気分のときにポジティブな出来事を思い出すことで、ネガティブな気分から回復しているというデータもある。
これには感情コントロール力が絡んでいる。うつになりやすい人は、ネガティブな気分に陥ると、その気分になじむネガティブな記憶を自然に思い出してしまう。それに対して、うつになりにくい人は、ネガティブな気分に流されることに抵抗して、わざわざポジティブな記憶を思い出そうとする。