【左利きは寿命が9年短い説】が物議を醸したワケ「明らかな誤り」と「否定できない現実」とは写真はイメージです Photo:PIXTA

「自動改札機を通過するとき腕をクロスさせなければならない」。こうした不便を日々感じる左利きは、右利きより「男性10年、女性5年」は短命と言われたこともある。左利きが直面する「右利き優先社会」の厳しい現実に迫った。本稿は、大路直哉『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』(PHP新書)の一部を抜粋・編集したものです。

左利きが身をもって実感できる
右利き優先社会の危険

「左利きは9年も寿命が短い」――左利きにとっては胸を締めつけられるショッキングな報告が地球上を駆け巡ったのは、1990年代。日本でも『左利きは危険がいっぱい』という邦訳書が各種メディアで取り上げられ、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が巻き起こりました。

 ちなみに原題(The Left-Hander Syndrome)を直訳すれば「左利き症候群」。こちらもネガティブな「病」を想起しますが、その著者である神経心理学者スタンレー・コレンが巻き起こした一連のセンセーションの引き金となったのは、「アメリカ・カリフォルニア州住民の死亡診断書をもとに近親者から得た故人の利き手などの情報を分析した結果」でした。

 性別でみますと、男性が10年、女性が5年、左利きは右利きよりも短命だとしています。

 さらに左利きの寿命が右利きよりも短い理由として――

(1)犯罪や反社会的行動など「行動上の問題」。たとえば犯罪学の始祖であるチェーザレ・ロンブローゾの生来性犯罪者説によれば、「左利きは左脳よりも右脳を好んで使うため生来的に犯罪に及ぶ傾向にある」。

(2)免疫障害や神経損傷そして妊娠・出産時のストレスなど「健康上の問題」。

(3)右利き優先の社会ゆえに左利きが多くの危険にさらされている現実。

 の3つを挙げています。

(1)については犯罪学において19世紀から20世紀初頭に主流だった学説によるもので、昨今、否定的見解がほとんど。(2)についても今後の研究でさらなる解明が期待されますが、(3)「右利き優先の社会ゆえに左利きが多くの危険にさらされている現実」については、左利きが身をもって実感できる現実です。

文明の利器が
「右利き優先」を加速

「危険」が左利きにもたらす事態については、ケガや事故のみならず、不便さから生じる「ストレス」も心身の病を導く要因となるため無視できません。

 ちなみに、高齢者に左利きが少ない理由について、コレンは「ストレスの温床ともいうべき環境と健康面が原因」としていますが、かつて左利きが右利きに矯正されたことは考慮していません。