こうしたコレンの見解に統計上の誤りがある点について、たとえば《外にあらわれた現象から自説に合った結論を出すことがいかに危険であることか》という神経心理学者・坂野登の指摘があります。
挙げ句の果てには「変な学術研究」としてユーモラスに取り上げられることもあり、物議を醸すことに事欠かない「左利き短命説」。
ですが、コレン自身、高度に機械化し発達した環境が左利きにとって危険を増大させるという、社会的な側面に警鐘を鳴らしていたことにも注目すべきです。くだんの著書『左利きは危険がいっぱい』でも「左手利きをいかに救済するか」という章まで設け、救いの手を差し伸べようとしていたのですから。
左利きに限らず男性の平均寿命は女性に比べて短く、その理由として「生理的な要因」、そして「女性と比較してストレスの多い環境での生活や行動が多い」などが挙げられます。
文明の利器がむしろ「右利き優先」を加速させている面も否定できません。利き手をめぐる生活環境は、はたして20世紀と比べて改善されているのか?
この素朴な疑問を検証すべく、20世紀末(1998年)に発表された「利き手に対する配慮に問題がある製品や設備」のなかから、気になる製品や設備を確認してみましょう。
自動改札機は左利きにとって「鬼門」
いつも不自然な姿勢を強いられる
開発のみならず導入に時間や費用を要する設備について注目すれば、やはり筆頭格は駅に設置された自動改札機です。2019年にOsaka Metro、2023年にJR西日本が顔認証改札機の実証実験を開始し、有料道路でETCを通過する車のごとく人間がウォークスルーする時代の到来を予感させます。
とはいえ、今後も併用される従来型自動改札機の存在と構造が「すべての人にやさしい」ものであるかどうかは、是非確認しておかなければなりません。
たとえば裏面に磁気データを保存した古典的な切符や定期券を通す自動改札機は、左利きにとって「鬼門」的存在です。挿入口は右側のみ。左手に持って挿入しようとすると、左腕を身体の前でクロスさせなければならず、大変不自然な姿勢を強いられます。