「テフロン加工候補者」の
神通力もいよいよ限界か
今後の大きな焦点は、有罪評決が11月の大統領選にどう影響するかである。
トランプ氏は今回の事件の他にも、2020年大統領選の結果を覆そうと支持者らを煽って連邦議会議事堂を襲撃させた件、政府の機密文書を不適切に持ち出して自宅に保管した件、ジョージア州の大統領選結果を覆そうと選挙管理責任者を脅迫した件の3つの刑事事件で起訴されている。
しかし、トランプ氏は起訴されるたびに、「捜査は不正に仕組まれたものだ」「自分は政治的迫害の犠牲者だ」などとバイデン政権と民主党を激しく非難し、人々の同情を集めて支持率を上げてきた。そのため、同氏の刑事裁判は有権者の投票にほとんど影響しないのではないかと思われていたが、実はそうではないことが最近の世論調査の結果で示されるようになった。
たとえば、ABCニュース/イプソスが5月6日に発表した世論調査では、トランプ氏支持者の20%が「トランプ氏が重罪で有罪判決を受けたら、支持を再考するか(16%)、撤回する(4%)」と回答した。
他にも複数の世論調査が行われているがどれも似たような結果で、「トランプ氏が有罪になれば、投票しない」という有権者が10~20%くらいいることが示されている。
特にトランプ陣営にとって懸念されるのは、アリゾナ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアなどの激戦州7州における有権者の投票行動ではないかと思われる。ブルームバーグ/モーニング・コンサルトが1月31日に発表した世論調査では、激戦州7州の有権者の53%が「トランプ氏が有罪となったら、大統領選で同氏に投票しないだろう」と回答しているのだ。
これら53%の有権者には、共和党予備選でトランプ氏と指名を争ったニッキー・ヘイリー氏に投票した共和党穏健派や無党派層の人たちが多く含まれていると思われる。
今回の大統領選も2016年や2020年の時と同様に大接戦となっているため、激戦州でのわずかな数千票、数万票の差によって勝者が決まると予想されている。だからこそトランプ氏にとってはわずかな票の取りこぼしも許されないわけだが、この有罪評決はトランプ陣営に大きな打撃となる可能性がある。
トランプ氏は有罪評決を受けた後、裁判所の外でテレビカメラに向かって、「これは仕組まれた恥ずべき裁判だ。本当の評決は大統領選の11月5日に国民によって下されるだろう」と述べた。
しかし、有罪判決を下したのは民主党やバイデン政権でもなければ、“ディープステート”(闇の政府)でもなく、ニューヨークに住む一般市民の中から選ばれた人たち(陪審員)であることを、トランプ氏は認識すべきであろう。
トランプ氏はこれまでどんな不祥事やスキャンダルに見舞われても打撃を受けるどころか、それを武器にして支持率を上げたり、寄付金を増やしたりしてきた。そのため、何があっても傷つかない丈夫なフライパンのコーティング素材に例えて、「テフロン加工候補者」と呼ばれることもあった。しかし、その異名が持つ強力な「神通力」にも限界があることが浮き彫りになってきた。