ドナルド・トランプPhoto:Luke Hales/gettyimages

トランプ氏に有罪評決
その最大の要因は?

 5月30日、ニューヨーク州マンハッタン地区の裁判所で米国の歴史上、驚くべきことが起こった。2016年の大統領選挙の前、不倫相手に口止め料を支払ったことを隠すために業務記録を改ざんし、都合の悪い情報を有権者から隠したとして34件の重罪に問われていたトランプ前大統領に有罪評決が下されたのだ。大統領経験者が刑事事件で有罪になるのは初めてだが、なぜこのような評決になったのか。

 かつてトランプ氏の顧問弁護士を10年以上務めたマイケル・コーエン氏は検察側の最重要証人として、非常に詳細で説得力のある証言を行った。

 コーエン氏は、2016年の大統領選に影響しないように不倫相手に口止め料を支払うようにトランプ氏から指示を受けたこと、それを弁護士費用としてコーエン氏に払い戻す計画についてトランプ氏と直接話し合ったことなどをはっきり述べた。またその時、口止め料を弁護士費用として支払ったように不正に処理されたとされる小切手や請求書が、検察側から陪審員に示された。

 コーエン氏は以前、「トランプ氏のためなら銃弾も受ける」と発言し話題になった。実際、トランプ氏のために口止め料を支払ったり(選挙資金法違反)、連邦議会で偽証したり(偽証罪)して有罪となり、禁錮3年の実刑を受けて13カ月半服役した。

 だが、その後はトランプ氏と決別し、「私が罪を犯したのはトランプ氏のせいだ」とテレビの政治討論番組やSNS、著書などで、元ボスを激しく批判するようになった。

 トランプ氏の弁護団は反対尋問でこの点に焦点をあて、「コーエン氏はトランプ氏に執着し、復讐しようとしている」と批判し、動機や信頼性に疑問を呈した。そして、コーエン氏のポッドキャスト(ネットで配信されるトーク番組)での、「私の家族に対してやったことのお返しに、この男(トランプ氏)にはどん底まで腐ってほしい」という怒りに満ちた発言の音声を法廷内で再生したりした。

 これに対し、コーエン氏は終始ゆったりして冷静に対応し、弁護側の挑発に乗って感情的になることはなかった。つまり、「法廷でコーエン氏の怒りを爆発させて信頼性を貶める」という弁護側の戦略は成功しなかった。

 裁判では他に検察側の証人として、トランプ氏の元不倫相手のポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏、トランプ氏と結託して同氏の不祥事に関する情報を買い取ってもみ消したとされるタブロイド紙の元発行人のデビッド・ペッカー氏などが説得力のある証言を行った。一方、弁護側は、当初は法廷で証言する意向を示していたトランプ氏が結局、証言台に立つことなく、最終弁論を終えた。

 そして7週間に及んだ「口止め料裁判」は結審し、約200人のニューヨーク市民から選ばれた12人の陪審員がトランプ氏に有罪評決を下した。