ニューヨークの刑務所に
収監される可能性も
もう1つの注目すべき点は、トランプ氏が刑務所に収監されるかどうかである。
一般的に業務記録改ざん事件で禁錮刑が科せられることは少ないようだが、トランプ氏の場合は、初犯であっても34件の重罪に問われるなど罪状が重いため、禁錮刑の可能性はあるという。
オバマ政権で倫理と政府改革担当の特別顧問などを務めたノーマン・アイゼン弁護士は、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中でこう述べている。
「トランプ氏はありふれた業務記録の改ざんではなく、米国の歴史を変えたかもしれない34件の重罪で起訴されている。自身の選挙に害を与える可能性のある重要な情報を有権者から隠すために口止め料を支払って業務記録を改ざんした可能性がある、と検察側は主張している。(中略) 加えてトランプ氏はこれまでのところ、この事件で主張されている出来事について反省していない。被告人の反省の欠如は量刑判断においてマイナスとなる。これらすべてが示唆しているのは、トランプ氏の禁錮刑は元大統領としては確かではないもののあり得ない話ではないということである」(4月18日)。
実際にアイゼン氏が業務記録改ざん事件の裁判に関する最新データを分析調査したところ、裁判所が量刑を言い渡した事件のおよそ10件に1件の割合で禁錮刑が科せられているという。
トランプ氏の量刑判決は7月11日に言い渡されることになっているが、担当のフアン・マーチャン判事はこれまで、「トランプ氏が大統領選に立候補し、次の大統領になる可能性は十分にあることは承知している。そのため、禁錮刑は最後の手段にしたい」と話す一方で、「それが適切であれば、禁錮刑も検討する」とも述べている。
トランプ氏はこの事件に対する反省の態度をまったく見せていないどころか、裁判の証人や検察官、裁判所の職員らを攻撃し、担当のマーチャン判事やブラッグ検事への批判も繰り返している。量刑判断の審理には、これらの点も考慮されるということである。
それではトランプ氏が禁錮刑を言い渡されるとしたら、どこの刑務所にどのくらいの期間収監されることになるのか。
アイゼン氏によれば、最も可能性の高いのは6カ月だが、場合によっては最長4年の刑に処せられる可能性はあるという。そして1年以内であれば、ニューヨークのマンハッタン東海岸のイーストリバーのライカーズ島にある短期禁錮刑受刑者用の刑務所に収監されるだろうという。
米国の憲法は刑事事件の重犯罪者が大統領選に立候補することを禁じていないので、トランプ氏はこのまま選挙戦を続け、当選して大統領に就任することもできる。しかし、刑務所の中から大統領の職務を遂行するのは、現実的に考えて、さまざまな問題や不都合が生じることが予想される。法律専門家によれば、その場合は一定の期間、毎週末だけ服役することも可能ではないかという。
いずれにしても、大統領選に立候補しているトランプ氏が刑事事件で有罪評決を受けたことで、米国の司法制度や政治システムはこれまで経験したことのない未知の領域に突入する可能性が出てきたのである。
(ジャーナリスト 矢部 武)