変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

メンバーを困らせるばかりで、いつも結果が出せない「ダメな管理職」の特徴Photo: Adobe Stock

「足し算思考」が引き起こす問題

 皆さんの周りには、何か問題が起きた時にスムーズに解決できず、なかなか結果が出せない「ダメな管理職」はいないでしょうか?そのような管理職の特徴として挙げられるのが、彼らの思考は常に「足し算思考」だということです。

 足し算思考の管理職は、問題の本質を見極めることなく、ただ表面的な解決策を積み重ねることに終始します。たとえば、プロジェクトが炎上したときに新しいメンバーを追加するだけでは、根本的な問題解決にはなりません。むしろ、新たな混乱を招くだけです。このような対応では、プロジェクトの進行は停滞し、メンバーの士気も低下してしまいます。

 新人が加入することによって、理論上は一人当たりの仕事量が減るように思いますが、ほとんどの場合、人数が増えたにもかかわらず全員の残業時間には大きな変化は見られません。かといって、その新人を異動させると、それまで回っていた仕事が全く回らなくなることに気づくでしょう。これは、人間が新たに仕事を生み出していることに起因しています。

「引き算思考」による効果的なアプローチ

 逆に引き算思考の管理職は、プロジェクトが炎上した際に一旦メンバーを減らし、現場のヒアリングを行って何が問題なのかを徹底的に考えます。実は、人数を減らすことで、無駄が省かれてプロジェクトが効率化することがほとんどです。現在のタスクの進行状況や各メンバーの役割を再評価し、無駄を排除します。そして、プロジェクトが順調に進展することを確認した上ではじめて、必要に応じてメンバーを増員します。

 引き算思考のアプローチは、問題の根本原因を見つけ出し、それに対する具体的な対策を講じることに重点を置きます。これにより、メンバーは自分の役割を明確に理解し、効率的に作業を進めることができます。また、管理職がメンバー一人ひとりの意見を尊重し、現場の状況を的確に把握することで信頼関係が深まり、プロジェクト全体の成功率が高まります 。

「引き算思考」で未来を描く

 引き算思考の考え方は、個別のプロジェクトを短期的に運営するとき以外でも有効な考え方です。たとえば、経営者が企業の未来を考えるときにも引き算思考を使うべきです。

 PDCAによる改善活動に慣れている私たちは、今あるものを、すでに持っているもので良くしていこうという思考になりがちです。しかし、過去をもとに改善を積み重ねていく足し算思考で描けるのは、せいぜい2~3年先の未来です。それでは、顧客や社会に新しい価値を提供することもできませんし、競合に対して差別化をすることも難しいでしょう。

 あらゆるものが目まぐるしく変化するVUCAの時代において10年後の未来を構想するためには、引き算思考が極めて重要です。目の前にあるものの意義や価値にとらわれずゼロベースで構想することで、根本的な変化・進化を実現しましょう。

『アジャイル仕事術』では、引き算思考を身につける方法以外にも、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。