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日本の労働者は生産性が低いとよく言われる。生産性の向上のためには実は人手不足である状況が最適だという。その理由を解説する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

菅義偉が説いた生産性向上
人手不足こそチャンス

 菅義偉政権は、2020年9月から21年10月までしか続かなかったが、経済の効率化を強調したのは素晴らしい。菅前首相は、就任後のインタビューで中小企業の生産性向上、地銀の整理統合、通信事業の効率化を通じた携帯料金の値下げ、行政のデジタル化、リモート診療などを提案していた。所信表明演説でも、既得権益の打破、規制改革などが強調されていた。

 これらは、経済の供給面の改革に重点を置いているということだ。行政のデジタル化も、政府に申請する国民や事業者の効率を高めるわけだから、政府のみならず経済全体を効率化し、生産性を引き上げる施策である。

 なかでも、中小企業の生産性向上を打ち出したのは素晴らしいことだった。私自身、中小企業保護を縮小し、企業の数を減らして生産性を上げるのは「正しいと思うが、自民党から共産党まで中小企業保護を唱えるのだから実行は難しい」と書いたこともあるので、正直、驚いた。大胆な改革によって経済の生産性を高めるのは素晴らしいことだ。

 ただし、経済の効率化には需要拡大による人手不足が伴わないとうまくいかない。「デジタル化してもクビにできないんだから、デジタル投資の分だけコスト高になる」という経営者のボヤキを聞いたことがある。

 しかし、人手不足の状況なら、人を余計に雇う代わりにデジタル投資をするのだから、誰も解雇するわけではない。

 新型コロナウイルス感染拡大前まで、中小企業はもちろん、地銀でも人が集まらないと言われていた(コロナ後は再び人手不足が続いている)。地銀の整理統合とは、役員、行員、支店長、店舗を減らすということだ。反対が多いのは当然である。

 しかし、仕事を自ら辞めて別の仕事に就く人が多ければ、企業は何の摩擦もなくリストラできて、経済は発展できる。リストラに反対し、社内の政治闘争に明け暮れていても生産性は高まらない。

 つまりは、人手不足こそがチャンスである。菅前首相の所信表明演説では、大企業で経験を積んだ人々を、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取り組みをスタートさせるとの方針も述べていたが、これも人手不足であればより効果的になるだろう(私は、大企業の人がどれだけ役に立つか疑問に思っているが)。