昨今、あらゆる業界で人手不足が叫ばれている。少子高齢化が今後も進む中で、労働力確保の一つの手段として外国人材を適切に受け入れていくことが重要だ。今回は、官房長官時代に取り組んだ外国人材の施策について振り返ろう。(肩書は当時のもの)(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)
人手不足に悩む
高齢者施設の現場
政策の種はあらゆるところから見つけることができる。2018年末に出入国管理法改正に至った外国人材の受け入れ拡大も、きっかけは17年秋ごろに、高齢者施設を運営する知人から聞いたこんな話だった。
「施設で働く介護士の人手が足りず、何度募集しても十分な数の人材が集まらない。そのためベッドは空いているのに、入所者を受け入れることができない。政治の力で何とかしてもらえないか」
ちょうどその頃に西日本新聞社の取材班が出版した『新 移民時代』という本も手にしたが、その内容に衝撃を受けた。その知人から聞いたような現場の問題が、多くの業界で発生している実態が赤裸々に報告されていた。
そこで官邸の秘書官を通じて実態調査を指示した。すると、全国的に介護施設は2~3割程度の慢性的な人手不足に陥っており、将来的には実に30万人を超える人手不足になるという。ほかにもさまざまな現場の話を聞いたが、コンビニ、建設業、農業など、あらゆる業種が人手不足に陥っていた。北海道への視察では、観光業界からも同様の声を直接耳にした。
これから少子高齢化が進む中、労働力確保の一つの手段として、外国人材の受け入れを適切な形式・手続きの下で拡大すべきではないか。そう考えたのである。
そこで私は、ある週末、各省庁の局長を議員会館の事務所に集め、関連する業界の人手不足の状況と、外国人材の活用実態について聴取した。しかし局長たちは一様に「人手不足は起きておらず、外国人材は必要ありません」と言う。私が聞いた現場の話とは大きく乖離していたのである。