需要を喚起し続けるのに必要な
金融・財政からの景気刺激政策

 菅前首相の著書『政治家の覚悟』(文春新書、2020年)にも、煩瑣な規制が経済成長を妨げていることがさまざまに記されている。たとえば高速道路でETCを早期に導入し、時間別、期間別に料金を変更する改革を拒んでいたのも、料金を徴収する職員がETCで人員整理されては困るという問題があり、かつ、徴収する団体への天下り問題が絡んでいたという。人手不足であれば、料金徴収の職員の行き先も探しやすいだろう。

 賃金を無理やり引き上げれば、高い賃金を払えない企業は倒産し、残った企業の生産性は高まるという、供給側主導の戦略もありうる。しかし、残った企業が倒産した企業の労働者を雇ってくれなければ、失業者が増加する。失業者が増えれば、失業者を含めた国民1人当たりの生産性は低下してしまう。意味のある生産性は、国民1人当たりのものだ。人手不足の中で自然に賃金が上がる、あるいは賃金の引き上げに政府が多少加勢すれば、失業を生まずに生産物が増加する。

 政府は大胆な金融緩和で人手不足状態を作りながら最低賃金を引き上げてきた。2012年に749円だったものが、2023年までで255円上昇して1004円と、1000円超えた。それ以前の2001~12年では84円しか上昇していない(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」全国加重平均額)。失業者を減らしながら賃金を引き上げてきたのだから、成功といえるだろう。

 人手不足であれば、省力化投資も必要になる。GDPが伸びているのだから、資本設備も不足気味になる。大規模緩和実施後では、設備投資も伸びている。そもそも、投資しないと生産性も伸びない。新しい設備には新しい技術が体化されているのだから、設備を新しくすれば生産性は自然と高まるものである。

 ところが、需要が伸びる、もしくは継続すると思えなければ投資はできない。すると、投資するためにも需要が伸びていることが必要である。需要の拡大とともに人手不足が生じ、生産性も高まったのである。

 では、どうしたら継続的に需要を喚起し続けることができるのだろう。2001~06年および13年以降は、大胆な金融緩和政策を行った時期である。01~07年では財政支出はわずかに抑え気味であった。12年以降は財政支出はほぼ一定だったが、2度の消費税増税を行っている。増税後、どちらも消費が大きく低下している。このことを見れば、金融・財政両面からの景気刺激政策を続けることが必要だということになる。