それでは財政赤字はどうなるのか、という意見が必ずあるだろうが、どちらの時期も財政赤字は縮小し、政府債務残高の対GDP比は横ばいになっていた。2012~18年に一般政府赤字の対GDP比は5.7%縮小したが、うち消費税増税によるものは1.5%でしかない。金融緩和で好況にならないと財政再建もできない、ということだ。

人手不足から起こった
ライドシェア解禁の議論

 ライドシェア解禁の議論も人手不足から生産性を高めるためには規制緩和が重要だが、人手不足がなければ規制緩和は難しい。これまで禁じられてきたライドシェア(アメリカのウーバーのように一般ドライバーが乗客を運ぶサービス)で、2023年後半になって急に解禁の動きが生まれた。この背景には、タクシー運転手の深刻な不足と、インバウンド(訪日外国人)の急激な回復がある。

 タクシー業界では、いまの運転手の資格要件を緩和することで担い手を増やす案もある。国交省は2023年9月15日、新たに過疎地などでの個人タクシーの営業を認め、これまで75歳だった運転手の年齢上限を80歳とする方針案を明らかにしたという。私は、80歳のタクシー運転手より普通のドライバーに運転してもらったほうが安全ではないかと思うが、政府はそうは考えないようだ。

書影『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)
原田泰 著

 過疎地を抱える自治体も、解禁を求めている。菅氏ら自民党の一部の動きを維新や都市・地方の声が後押しする可能性があるという。菅義偉前首相や河野太郎デジタル相らが旗振り役を担っているが、有力政治家といえども、人手不足がなければ規制緩和に向けて力を発揮できないだろう。

 タクシー業界の反対で、ライドシェアが解禁されるかどうかは分からないが、人手不足が規制緩和の動きを加速するのは明らかだ(結局、タクシー業界の反対で、タクシー会社が管理するライドシェアが2024年4月に解禁されることになった。さらに解禁するかどうかは、24年6月までに判断するとのことである)。