松本氏を訴えた女性は6年前の事件と言っている以上、「不同意性交等罪」に問うことはできません。実際、彼女も文春も松本氏に刑事罰を要求しているわけでありません。しかし、法律が改正されたのは、被害者の訴えを法律で明確に認め、罰を与え、被害者を救済しなければならないと考える法執行官が大勢いたことが背景にあることを、忘れてはいけません。

 法律は時代によって変わります。ジャニー喜多川氏のセクハラをめぐるジャニーズ事務所と文春との裁判でも、1990年代当時はセクハラに関する罪が明確なものではなかったため、一審では文春は敗訴しました。しかし、世界の趨勢や日本でもセクハラ問題を法的に処罰しようという流れの中で、「この判決はおかしい」という法曹界の多数の意見が、二審での少年被害者証言において、ビデオ証言や衝立の前(加害者が見えないところ)での証言を可能にして、主要部分で文春が完勝しました。文春の取材だけでなく、法曹界そのものが大きく動いたのです。

 今回の法改正も、関係者の相当な熱意が込められています。もともと法律は不変のものではありません。時代によって変わります。そして、改正については内閣法制局から発議され、国会の審議、議決を経て決定するわけですが、内閣法制局は各省庁に改正すべき法律がないか綿密に調査した上で、国会での審議となります。

 それだけ従来の強姦罪については隠れた被害者が多い、あるいは法律のせいで捜査がしにくいといった訴えが多く集まったからこそ、成立した法律だと言えます。

「性交渉したが同意はした」は
法改正後は完全にアウト

 松本氏が今回提起したのは、結局「性交渉はしたが、同意はした」という言い分になりますが、裁判所側からすると、まずA子さんが訴えた時点ですでに強姦罪すれすれの要件であったにもかかわらず、その時期に訴えてくる女性がいなかったので、自分に権力があることを忘れ、不同意性行為も同意だと思い込んで、怪しげな集まりを繰り返していたと解釈されても仕方がありません。

 法改正後は松本氏も、「これは完全にアウト」だと学んだでしょうから、それでも「同意があった」と断言できるとすれば、よほど確たる証拠がない限り、まったく反省のない人間としか見られないでしょう。日刊ゲンダイデジタルには、「文春に対して松本氏側の弁護士が、証言者の身元や姓名を明かせといったのは、彼女たちに対して十分な反論証拠を得たからだ」いう具体性のない表現もありました。こういうセカンドレイプ的な記事を書く以上、しっかり裏をとり、しかも具体的に書かない限り、この記事自体が訴訟妨害のみならず、被害者への圧力になることをわかっているのでしょうか。