つまりは、原告と被告が双方ともに性行為はもったが、「同意した」(加害者)、「同意していない」(被害者)と主張した場合、松本氏のように有名タレントであり、女性に対して圧倒的に地位や権力に差がある人の言い分は、(5)と(8)の要件を満たすことになり、正当性が認められない可能性が極めて高くなってしまうのが、今回の法改正の目玉なのです。
私は『週刊文春』の元編集長だから、文春サイドに立って憶測しているわけではありません。強制性交等罪、いわゆる強姦については、以前から法的な不備が指摘され、被害者が訴え出ても法的に証明することが困難なため、捜査が見送られたり警察が積極的でなかったりすることが、よくありました。
強姦は立証が難しい
警察も悩ましいのが本音
10年以上前のことですが、女子学生が『週刊文春』編集部に強姦被害を訴えてきました。彼女は弁護士事務所でアルバイトをしていて、雇用者である弁護士に別荘に招待され、そこで睡眠薬を飲まされ、気がついたら暴行されたと訴えていました。私は数日間かけて彼女の話しのウラをとり、ハニートラップや脅迫のための嘘ではないと確信しましたが、彼女によると、文春に連絡する前に警察に訴えたのに、まったく取り合ってもらえなかったと言います。
どこの警察の誰が窓口だったかを聞き出し、その警察署に顔が効くもっと上位の警察幹部に相談して、該当する警察署の副署長にもう一度話を聞きに行きました。そのときの警察署幹部の対応には驚きました。「女性が自分で強姦されたなんて、そんな恥ずかしいこと、警察に自分で言いにくるはずがないでしょう」「経験上、女性がこういう件で警察にくるときは何か目的があるんです」と、一応メディアの人間である私に堂々と言い張るのです。正直、被害届さえ出させてもらえず、門前払いでした。
この署員を紹介してくれた警察幹部に「警察は弱者の味方ではないのか」と問い質したのですが、返ってきた返事は「相手が弁護士でしょう。その上、強姦罪は立証が難しいので、警察がもし逮捕なり事情聴取なりにまで持ち込んでも、検察も嫌がる案件になるんです。彼女は気の毒だとは思いますが、正直レイプ検査もしていないし、今の法律下ではこの訴えを取り上げるかどうか、警察幹部としても悩むのが本音です」とのこと。
これが社会正義を果たす法執行機関と言えるのか、私も腹が立ちましたが、相手が弁護士となると、弁護士仲間も彼女の弁護を嫌がる人が多く、結局泣き寝入りをさせてしまいました。