なぜメディアは
水原氏を直撃しないのか
最近、メディアを大きく騒がせている事件には共通項があるように思います。それは、自分たちの足で取材し、自分たちで疑問を持ったことを真剣に調べてみようという報道姿勢の欠如です。
たとえば、大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の賭博問題。大谷氏は会見で「通訳がすべて嘘をついた」ことを主張し、「送金も通訳が勝手に行った」と発言しました。この会見に対して多くの弁護士やコメンテーターなどから「なぜ、通訳が大谷のカネを勝手に送金できたのか。それに(会見で)触れなかったのが怪しい」という議論が展開されました。
週刊誌の元編集長として、その発言を聞いてがっかりしました。大谷氏は被害者だと主張しています。被害者が「おカネをどうやって盗まれたか」わかるはずはありません。あるいは推定はできても、それを会見で言えば、 「大谷の了解を得て送金していた」と嘘の主張をする水原通訳が、その推理をうまく言い逃れに使うかもしれません。大谷氏側の立場で少しでも考えれば、絶対に会見で具体的に明かす必要がない部分であり、「怪しい」と発言していた弁護士も、自分のクライアントならそうアドバイスするはずです。
テレビに出演するコメンテーターや弁護士が、基本的にはほとんどのテーマについて実は素人に近いことは、何度も本コラムで指摘してきましたが、昨日まで大谷氏の活躍と美談ばかりオンエアしていたメディアが、今度は事件の中身など全く知らないまま、掌返しのコメントです。
それ以上に気になるのは、大谷氏の会見には大量に日本人記者やテレビクルーが入っているのに、どうして水原元通訳への取材をしようと努力していないのかということです。所在がつかめないという報道もありますが、それを探すのがプロの仕事ではないでしょうか。
彼には家族がいます。友人もいます。その人たちに連絡をとり、昔の生活や人格を取材しながら、逃亡場所になりそうなところを探すという作業を日本のメディアがやっている気配がありません。むしろ、米国メディア『ロサンゼルス・タイムズ電子版』はしっかり追いかけています。題して、「謎に包まれた半生」(3月28日=日本時間29日)。元通訳・水原一平氏(39)の人生を追った特集です。