そういう人たちの声ばかりが大きく聞こえるというのは、結局、「生存者バイアス」がかかっているのだと思います。
このように結果的にうまくいった人のキャリアが、他の人のケースに当てはまるかというと、そうではないでしょう。これもまたキャリアに関するその他の言説と同じで、「やりたいことをやる」といっても具体的にどうすればよいのか、内実はあいまいなまま、聞こえのよいシンプルなメッセージばかりが、社会に流布してしまっている、と言えるでしょう。
また、「やりたいことをやったほうがいい」という言葉の背景には、仕事に「やりがい」や「生きがい」を求めるような風潮からのバイアスもあるのだろうと思います。
仕事は生計を立てるのが第一義
仕事に「やりがい」や「生きがい」を求めるなど、仕事を通じて自己実現を叶えようとする人は、自分がやる仕事は「天職」でなければならないという強迫観念にとらわれているのではないかと思います。
そこには仕事に対する「幻想」があり、これもまた、「やりたいことをやったほうがいい」とか、「好きなことを仕事にしたほうがいい」という語りなどと同じように、ある種の成功者バイアスであり、「呪いの言葉」ではないでしょうか。
しかし、本当に仕事だけが、自己実現の道なのでしょうか。なぜ、仕事だけを生きがいと考えなければならないのでしょうか。
逆に、そこまで「やりたいこと」も「好きなこと」もない人を、追い詰める結果にしかなっていないのではないかと思います。そうであるならば、無理にやりたいことや好きなことを仕事に合致させる必要はないでしょう。
だから、もっと自分の気持ちに素直になることのほうが、とても大事だと思います。
「年収を上げたい」というのも、非常に素直な欲求だと思います。仕事に変な幻想を持たずに、「生活費を稼ぐための手段」くらいに考えるのも全然悪いことではありません。
むしろ仕事をする理由としては、当然のことではないでしょうか。それを変に「やりがい」とか「生きがい」という言葉でごまかさないほうがいいでしょう。