
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第81回(2025年7月21日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
東京に行く決心をしたのぶ(今田美桜)に
東海林(津田健次郎)が伝えたこと
第17週のサブタイトルは「あなたの二倍あなたを好き」(演出:柳川強)と、にわかにラブストーリーっぽいサブタイトルに。
のぶ(今田美桜)は高知新報を辞めて東京に行く決心をした。代議士・薪鉄子(戸田恵子)の仕事を手伝う決意を固めたのだ。
昭和21年(1946年)9月、のぶが退社する日。東海林(津田健次郎)は「お前みたいながどこ行っても通用せんぞ」などとのぶにねちねちと意地悪なことを言う。
傍らで見ていて気が気でない嵩(北村匠海)。「最後くらい快く見送ってあげましょうよ」と口をはさむが、東海林はわざと偽悪的に振る舞っていた。
急に態度と口調を変え「これが世間や。世間はこわいぞ」とのぶに助言する。そんな世間に決して「負けるなよ」と。東海林の愛情こめた緩急にのぶの大きな瞳から涙がこぼれ、上着の襟を濡らす。
ここまでドラマを見続けている視聴者は東海林が本気で意地悪を言う人ではないことをわかっている。だからこそ、嵩のようになんでそんな意地悪なことを言うんだろうと違和感を抱くわけだが、いきなりいい話をするよりも、いったん外したほうが、いい話にグッとくるという技である。
そもそも、「(代議士に引き抜かれるなんて)ええご身分だにゃあ」って、もともとは東海林が東京行きを勧めていたのだから、冒頭のセリフの数々はおかしい。わざと嫌味を言っているわけだ。ドラマだからいいが、実際、こんな芝居がかったことをする上司がいたら合わせるのが面倒くさそう。こういうのをたぶん劇的ハラスメントという(冗談です念のため)。