認証不正発覚直後ということもあり、逆風の中での開催となったトヨタ自動車の株主総会。不正の発覚を受けて、豊田章男会長の再任反対を表明する議決権助言会社が増えていた。降りしきる雨の中集まった株主に、トヨタは認証不正やガバナンスについてどう説明したのか。総会の質疑の詳細を振り返るとともに、役員の選任議案に対する賛成率からトヨタのガバナンス不全の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)
認証不正を、佐藤社長が陳謝
豊田会長はガバナンス強化に意欲
「まずもって、お客さまと株主の皆さまにご心配、ご迷惑をおかけし、心よりおわび申し上げます」。
株主総会の質疑応答の冒頭、6月3日に認証検査不正問題が発覚したことを受け、佐藤恒治社長はこう株主らに謝罪した。発覚当初は豊田章男会長が会見に臨んだため、佐藤社長の謝罪は公の場として初となった。
質疑応答では不正に関する質問が相次いだ。
ある男性株主が、トヨタの完全子会社であるダイハツ工業で不正が30年間続いていたことを受け、歴代のダイハツ経営陣に株主代表訴訟を提起する予定があるかを問うと、トヨタ担当者は「ダイハツらしい商品を提供し、一緒になって立て直していきたい。トヨタ側から代表訴訟をやるということはない」と強調した。
別の株主は、「日野自動車やダイハツの問題発覚以降も不正が相次いだことの要因に、トヨタ社内の調査が甘かったことがあるのでは」と質問。これに対して佐藤社長は「認証の問題は多面的に取り組んでいく必要がある。私自身も汗をかいていきたい」と釈明した。
株主総会の終盤では、トヨタのガバナンスを問う声が上がった。豊田会長は「私の存在や行動というのは、院政とか道楽とか言われてしまいます。今、院政というと老害のようなネガティブなイメージがありますが、本来の院政はむしろ、新しい時代を切り開く気概に満ちたものだ」と反論。今後も会長としてトヨタのガバナンスを強化する姿勢を示した。
このように、認証不正や今度の経営戦略に関する質疑があった一方で、中日新聞社の経済部出身で、トヨタの担当キャップも務めた人物が監査役に就任する人事について意図を問いただす質問は出なかった。結果的に、例年同様に2時間程度で終わる「シャンシャン総会」となった。(トヨタの社外取締役の人選についての詳細は、『トヨタの社外取・監査役「人選の新基準」をガバナンス専門家2人が斬る!不正防止・独立性に疑問符』参照)。
ただ、市場でのトヨタに対する見方は厳しい。総会前、米国の議決権行使助言会社であるインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスの2社は、トヨタグループ内での不祥事をはじめ、社外取締役の構成に問題があるとして反対を推奨していた。
では、今回の株主総会で、議決権助言会社の助言はどれくらい影響したのだろうか。次ページでは、豊田会長をはじめとする役員の選任における賛成率を分析するとともに、ガバナンス不全の実態に迫る。