米投資ファンドのKKRが、インヴィンシブル投資法人とシンガポール政府系投資ファンドのGICが保有する超大型高級ホテル「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル」を取得する方向であることがダイヤモンド編集部の取材で分かった。KKRをはじめとする“黒船ファンド”は、日本でのホテル投資をさらに加速する方針で、次なる争奪戦の候補として、ある大型高級ホテルが浮上している。特集『狂乱バブル ホテル大戦争』の#2では、次なる争奪戦の候補に挙がる大型高級ホテルの実名に加え、黒船ファンドの裏事情を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
急速な円安と低金利が引き金
黒船ファンドは日本重視の資産配分へ
米投資ファンドのKKRが取得する方向で調整している「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル」は1988年、東京ディズニーリゾート(TDR)に隣接する好立地に開業した。客室数1016室のフルサービス型超大型高級ホテルで、TDRオフィシャルホテルの中で最も規模が大きい。
開業当初は大成建設が保有し、米モルガン・スタンレーグループと米スターウッド・ホテル&リゾート(米マリオット・インターナショナルが2016年に買収)が07年に取得した。その後、13年に米フォートレス・インベストメント・グループが取得し、フォートレスが17年に傘下のインヴィンシブル投資法人とシンガポール政府系ファンドGICに約1000億円で売却していた。
KKRはシェラトン・グランデ・トーキョーベイを取得することで、堅調な需要が見込まれるTDR来場客やインバウンドを取り込む狙いだ。
KKRが日本でホテルに投資するのは、これで3軒目となる。23年に香港系投資ファンドのガウ・キャピタル・パートナーズと共同で、東京・西新宿の大型高級ホテル「ハイアット リージェンシー 東京」を取得。今年5月にはユニゾホールディングス系ビジネスホテル14軒を取得した。ユニゾ系については、マリオットとフランチャイズ契約を結び、マリオットの日本での宿泊特化型ホテルへの参入を後押しした。
KKRがホテル投資を加速するきっかけとなったのが、22年に買収した資産運用会社、三菱商事・ユービーエス・リアルティ(現KJRマネジメント)だ。同社は三菱商事とスイスのUBSグループ傘下のUBSアセット・マネジメントが共同で保有していた。
KKRは三菱商事・ユービーエス・リアルティを買収したことで、日本最大級の不動産投資信託である日本都市ファンド投資法人と産業ファンド投資法人も手に入れ、資産運用残高(AUM)は1兆2000億円に上る。KKRはさらなるAUM拡大に向け、ホテルを含めてあらゆる不動産投資先を物色しているのだ。
鼻息が荒いのは、KKRだけではない。多くの外資系ファンドは、急速に進んだ円安と低金利で資金調達できる日本市場へドライパウダー(待機資金)を振り向ける、アセットアロケーションへの移行を加速している。ある外資系ファンドの幹部は「『とにかく買え』とヘッドクオーターからプレッシャーをかけられている」と明かす。
とりわけホテル投資は「美しいストーリーを描きやすい」(別の外資系ファンド関係者)。政府が30年までに年間6000万人の訪日外国人旅行者(インバウンド)を誘致する方針を掲げており、まだまだインバウンド需要が伸び続ける可能性がある。だからこそ、外資系ファンドがホテルに熱い視線を送っているのだ。
一方で、供給側の動きも活発だ。ホテルの売買に詳しい業界関係者によれば、外資系ファンドの動きを察知して、「今が売り時」として保有するホテルを売却しようとする動きが相次いでいるという。
シェラトン・グランデ・トーキョーベイのような大型案件はほかにも浮上している。ダイヤモンド編集部の取材で、ある大手不動産デベロッパーが、保有する大型高級ホテルを売却する方向で検討していることが判明した。1000億円を超える巨額ディールになると予想され、外資系ファンドを中心に熾烈な争奪戦になるとみられている。
次ページでは、1000億円超の巨額ディールと予想される大型高級ホテルの実名に加え、争奪戦に参戦する可能性のある外資系ファンドも明らかにする。また、買収後に外資系ファンドのパートナーになり得るホテル事業者も予想する。