10円硬貨2枚のために捜索隊
そして見つけたものとは

 しばらくすると、山田さんが報告にきた。

「課長、3本巻けましたが、残り1本が3枚足りなくて巻けません」

「そうか。よし、探そう」

 1枚はほどなく、ロビーの床の上からはるか遠くのソファの下で見つかった。しかし、残りは30分ほどかけて探してみたものの発見には至らず、お客には一度帰ってもらった。午後3時の閉店に合わせ、手の空いたロビー担当者などをかき集め、捜索隊を組んだ。

 カウンターの隙間に懐中電灯の光を当て、くまなく探す。古びた10円硬貨や5円硬貨は、見つからないことが多い。100円硬貨といった銀貨に比べ、銅貨は光に反射しないのだ。 午後5時を過ぎた辺りで「帰っていいですか」とパート社員たちから尋ねられた。疲れもピークに達してきた頃、窓口カウンター付近から大きな声が上がった。

「あったー!」

 すぐさま、声の主である山田さんのもとに駆けつける。

「どこ?2枚あったのか?」

「いや、10円はないですよ。課長、キノコ探してたじゃないですか?」

 手招きする山田さんと一緒に、いつも彼女が座っている狭い窓口カウンター席の足元に潜りこむ。懐中電灯で照らされた先に、赤いキノコのステッカーが見えた。そして、その隣には、白い箱にイヌのキャラクター…ソフトバンクのレピータも見つかった。

「私、いつもこの箱に足かけて座ってましたが、何に使うんですか?」

 あきれたものだった。悪びれもなくそう言われると、返す言葉もない。

 大半の行員が帰り、午後8時を回った頃、通用口のインターホンが鳴った。防犯カメラの画面を見ながら通用口を開けると、件の居酒屋の店長だった。大柄でパンチパーマの彼の後ろには、先ほど訪れたアルバイトの女性もいる。共に頭を下げていた。

「今日はすいませんでしたー!こいつから聞いたんですが、ほんとにご迷惑をかけてしまって。ほら、言えよ!」

「あ、あのー、10円玉が見つかりまして。ジーパンのロールアップした裾から2枚出てきたんです。着替えてたら落ちてきて分かりました。これ、チューハイのサービス券です。よかったら皆さんで使って下さい」

「遅い時間にすいませんでしたーっ!」

「あ、どうもありがとうございます!」

 やれやれ…。だが、硬貨もレピータも見つかって良かった。