7人分の博覧会チケットを
無理やり売りつけてきた先輩
「目黒?なあ、頼むってぇ。なあ…」
「すいません。お客さんとの約束に遅れそうなんですよ。今は勘弁して下さいよお」
「じゃあ、帰ってきたら頼むぞ。お前、関東出身だろ?家族分合わせて7枚だぞ」
迫田先輩は年次で2年先輩。学生時代はヨット部に所属し、学生日本代表として日の丸を背負い世界を股にかけて転戦し活躍していた…と自分で言ってるが、本当のところは分からない。今から約30年前の当時、このような人物はいくらでもいた。バブル末期で体育会出身の都市銀行行員が話す昔話は、話半分に聞いておいたほうがいい。
「よお、目黒。迫田先輩にせっつかれとったな。何枚買わされたん?」
ひとつ上の年次の白石先輩から、トイレで用を足しながら声をかけられた。
「家族分で7枚とか言ってますけど」
「1枚2500円やから、えっと…1万7500円かぁ」
「痛いっすよ。給料日前で金欠なんですから…」
「買うても行かへんよなあ、都市博(世界都市博覧会)なんか…。大体よ、うちらが生まれてからナントカ博とかやってたの、なんか行ったか?」
「横浜博とつくば博には行きましたよ、学生時代」
「暇な学生さんとかならまだしも、こんな狂った仕事大量に抱えて、週末出かけられへんよな」
「まあ、行かないっすね。そもそも都市博って何すかね?都市見せるのに金取るとか、もう理解できないっす」
愛・地球博とか花博とか、何かをテーマにした博覧会ならばイメージがつきやすいし、興味がある人は行きたいだろうと思うものの、都市博というのは何を見させられるんだか、さっぱり想像がつかない。