硬貨が落ちる音と共に
窓口で上がった悲鳴

 日本で携帯電話を普及させたのは、NTTドコモ、au、ソフトバンクなどであり、スマホを利用したければ、どこかしらのキャリア業者と契約しなければならない。そして契約すれば、おおむねパケット定額サービスが適用され、Wi-Fiスポットがなくても安価でインターネット通信を利用できる。

 海外では、キャリア業者と契約するのではなく、新品ないし中古のスマホ端末に、料金を前払いするタイプのプリペイドSIMや、レンタル契約のSIMを差し込んで使うケースがほとんどである。

 海外では、キャリア業者が争ってWi-Fiスポットを設置することはなかったので、人の集まる場所にWi-Fiスポットがあることが、日本の場合よりも重要になってくる。だからこそ日本に旅行で訪れた外国人は、Wi-Fiが使えない場所の多さに我慢できないのだろう。

 では銀行ではWi-Fiが使えるのか?

 私が勤務しているみなとみらい支店では使えない。正確に言うと、特定のフロアのごく限られたエリアのみWi-Fiが使える。

 銀行の店舗にはたくさんの事務機器がある。それらは年々小型化し、ハンディタイプに変わった。LANケーブルにつながっていた機器はコードレス化し、支店内には事務機器用の無線LANが張り巡らされている。だから、一般的に電波の干渉を恐れてWi-Fi環境は乏しい。

 私がレピータを探し続けたある日、テラー席(窓口)で「キャー!」という悲鳴が、硬貨の音と共に響いた。

 駆けつけてみると、たくさんの10円玉硬貨が窓口席に散乱していた。声の主は、商店街の居酒屋で働くアルバイトの女子大生。夜の営業に備えて釣り銭用の硬貨に両替しようと来店した。だが、接客した柴田さんから受け取った10円硬貨の棒金に手を滑らし、窓口カウンターにばら撒いてしまったようだ。

 棒金とは、硬貨を50枚ごとに透明セロファンで棒状に巻き、持ち運びしやすいように、また数えやすくしたものだ。支店の中にセロファンを巻く機器があるのだが、たまに調子が悪いと巻きが甘くなることがあるのだ。

「ごめんなさい!私、あの、どうしたら?」

「大丈夫ですよ。まず、いくらばら撒いてしまったかを確認しましょう。柴田さん、10円硬貨でいくらの引き出し?」

「6500円です」

「とすると、10円硬貨が650枚。50枚で棒金1本だから、50で割ると13本か。出金記録と合ってるかな?」

「はい、10円硬貨で…13本。間違いありません」

 この仕事を長年やっていると、暗算に強くなる。たまに勘定が合わない時などは、こうした技量が役に立つこともある。

「お客さま?今、お手元に10円硬貨は何本お持ちですか?」

「えっと…9本です」

「すると、4本、つまり200枚をばら撒いてしまっているわけだ。山田さん、ザルを持ってきて散らばっている硬貨を集めて、巻き直して」

「はい」