銀行の店内でWi-Fiが
使えない当然すぎるワケ

 翌日、ドコモCSの猿渡さんに電話し、見つかったことを伝える。よほど予定がなかったのか、昼には回収にやって来た。何度も電話でやりとりをした猿渡さんに、店内に設置しているWi-Fiが繋がりにくい理由を尋ねてみた。

「その、レピータと言うんですかね、それがあったのに、なんでWi-Fiが繋がりにくいんでしょう?もしかしたら不具合があったとか」

「いや。不具合ではないですよ。レピータは、Wi-Fiのアンテナではありません」

「はい?」

「携帯電話が室内でも繋がるように、電波を強めているだけです。この機械を設置した10年以上前は、スマホもなく、携帯電話の電波も弱かったんですよ。3Gとか聞いたことありませんか?今は5Gの時代。電波も強くなっていて、通話も問題はありません。だから、もうお役御免なんですね」

「Wi-Fiの設備はないんですか?」

「ドコモでは、この付近に公衆Wi-Fiのスポットを設置していません。駅の中とかは鉄道会社さんが設置してるかも知れませんが、銀行さんは分かりませんね。設置する意味がないからなんじゃないですか?」

「そうなんですか…」

 ドコモが来たら、iPadのデータ更新に時間がかかると文句のひとつでも言ってやろうと思っていたのだが、こちらの知識不足だった。

 今の銀行は「ロビーを快適にしよう」などとは考えていない。昔の銀行だったら夏は冷房、冬は暖房が効いていて、一日中テレビがついていた。最新の雑誌がマガジンラックに並び、銀行を利用するお客や訪れる企業の経理担当者にとって、快適で居心地のいい場所だった。少し待たされると、居眠りなどもしたものだ。

 ところが現在、行内にはマガジンラックなど置いていない。あっても投資信託の案内チラシが並んでいるぐらい。テレビもなければソファの背もたれもない。ひたすら長居をさせないよう、居心地を悪くするための工夫が詰まっている。

 振り込みや納税は、ネットバンキングで手続きすれば窓口に来なくて済む。住所や氏名の変更も同じ。それでも窓口に来店するお客に対しては、用事だけ済ませてさっさと帰ってほしい。さらには片っ端から来店客に声をかけ、NISAやiDeCoを契約してもらい手数料を稼ごうとしている。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 したがって、個人の資産運用が見込めない会社筋の来店客など、銀行にとってはメリットがない招かざる客だ。そんな客が居心地よく居座られるなど、あってはならないのだ。Wi-Fi?あるわけなかろう。

 オフィスビルに間借りしているテナント店舗であれば、ビル全体にWi-Fiを設置しているため、店内でもWi-Fiが使えるケースはある。だが、駅前にあるような従来型の単独店舗の多くでWi-Fiが使えないのには、そんな背景があるのだ。

 この銀行に勤務して数十年、悲喜こもごもの日々であった。今日も私はこの銀行に感謝し、懸命に勤務している。

(現役行員 目黒冬弥)