加藤勝彦・みずほ銀行頭取Photo by Yoshihisa Wada

渋沢栄一が設立した第一国立銀行をルーツに持つみずほ銀行。加藤勝彦頭取は、渋沢栄一が説いた「道徳経済合一」が、今まさしく銀行に求められている考え方だと話す。同行に今も生きる“渋沢イズム”や、今年度から強化している中小企業への支援について、話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

社会課題=経営課題
“渋沢イズム”で取り組む

――みずほ銀行のルーツである国立第一銀行を設立した渋沢栄一が、新1万円札の肖像になりました。今もみずほ銀行に残っているといわれる渋沢イズムはどのようなところだと考えていますか。

 当行に渋沢イズムはしっかりと根付いています。渋沢栄一が国立第一銀行を設立した1873年は、国内では江戸から明治へと社会が大きく変わる時期、また国外では列強の存在も大きくなっていました。

 そんな変化の中で日本を発展させるためには、経済の成長が重要で、渋沢栄一は公益と私益の両立が最も重要だと説きました。それが「道徳経済合一」です。

 当社が昨年に一新したパーパス、「ともに挑む。ともに実る。」には、渋沢イズムが表れていると思います。今、日本は金利上昇が始まり、経済がようやく動き始めましたが、地政学的なリスクは高まっており、サステナビリティーなど社会課題にも直面しています。

 企業にとっては、社会課題=経営課題という状況です。社会課題は一企業だけで対応できるものではありません。日本の経済成長のために、企業とつながりを大切にしながら、私たちの役割を果たしていきたいと考えています。

――社会課題解決に向けた具体的な取り組みは。

 トランジション・ファイナンス(*)は現在、世界ナンバーワンの規模です。また、2030年までに100兆円以上のファイナンスをアレンジすることにコミットしています。

 水素のサプライチェーン構築に向けた、2兆円のファイナンスを目指すことも公表しています。水素はまだまだマネタイズできていない分野ですが、発展のためにファイナンスするだけではなく、ビジネスパートナーとして出資することも視野に入れています。これこそ渋沢栄一が言った「公益と私益の両立」の一つの表れかなと思います。

*トランジション・ファイナンス:企業が脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略にのっとった温室効果ガス削減の取り組みを行っている場合に、それを支援することを目的とした金融手法。

――国内の中堅・中小企業向けには、どのような戦略で取り組むのでしょうか。

 金利のある世界ではインフレが定着し、賃金と購買力が上昇する好循環が起こるのですが、同時に“裏側”のことも考えなければなりません。

メガバンクはここ数年、北米やアジアなどへの積極的な投資が目立っていた。ところが、金利上昇局面に入ってから国内中堅、中小企業への成長支援、さらに預金の重要性が高まったことから個人向けの金融サービスを強化する動きが活発になっている。みずほ銀行は全国47都道府県に店舗あるいは営業拠点を持つ。日本経済の変わり目にある今、みずほ銀行はどのような戦略を進めるのか。加藤勝彦頭取に話を聞いた。