独身を通してきた人をはじめ、配偶者と死別・離別した人など、世の中にはさまざまな事情で「おひとりさま」として暮らす人がいます。しかし一口におひとりさまと言っても、年齢を重ねた後も幸せに生きていける人と、不安やストレスにさいなまれながら生きていく人に分かれるのが現実です。両者を分ける「壁」の正体は何なのでしょうか。生前整理・遺品整理のプロ、山村秀炯(やまむら・しゅうけい)氏の書籍『老後ひとり暮らしの壁』から抜粋して、その答えをお届けします。今回のテーマは「思い入れのあるモノ・住まいとの別れ方」について。
住み慣れた家を思い切って離れる
久住さん(仮名)は70代後半のひとり暮らし女性です。娘さんが結婚して家を出てからご主人とふたり暮らしだったのですが、そのご主人も亡くなられて、ご家族で暮らしていた郊外の分譲マンションにひとりで住むことになりました。
老母のひとり暮らしを心配したのは娘さんです。「お金は私が出すから」。そう言って自宅近くの老人ホームへの入居をすすめ、久住さんもそれを受け入れることにしました。
久住さんの趣味はバルコニーでのガーデニングでした。部屋の中にも観葉植物の緑があふれていました。ところが、移り住む老人ホームでは個室のスペースが限られていて、それまでと同じようにガーデニングを楽しむことができません。しかも、それまでに育てた植物たちもすべては持っていくことができず、処分しなければなりませんでした。
そこで整理のために呼ばれた私が部屋を訪れると、すでに必要なものと不要なものはあらかた分けられていました。不要なものの中には、大切にしていたであろうガーデニングの道具も含まれています。
「これも捨てていいのですか?」
確認のために尋ねたときの答えが印象的でした。