もう1つは、実際に被害がなくとも、警察や検察などの捜査機関が刑事事件として「立件」することをあらかじめ決めてから捜査に着手するもので、このような刑事事件は「立件型事件」と呼べるものです。

 郷原先生は、後者の「立件型事件」にこそ大きな課題があると述べられています。どういうことかと言えば、捜査機関が起訴や有罪判決にこだわってしまうこと、そしてそのこだわりにおいて捜査が行われてしまうため、冤罪も生まれやすいのです。捜査機関にとっても引くに引けない状況が生まれやすく、犯人が見つからないにもかかわらず、半ば強引に犯人を作り出してしまう傾向すらあるのです。

 つまり、事件として立てるという考えを捜査機関があらかじめもっているわけですから、「立件」ありきで捜査が行われ、半ば強引にも犯人を作り出してしまう傾向があるというのです。これが冤罪につながりやすいのです。

 郷原先生が述べられているのは、あくまで刑事事件ですが、これは組織不正にも十分に当てはまることと言えます。捜査機関が「立件」することを決めてかかってしまえば、組織にとってはやはり寝耳に水であり、組織として「正しい」と考えていても(さらには組織だけではなく多くの人が「正しい」と考えていたとしても)組織不正として認めさせられてしまうからです。

 つまり、組織不正もまた「発生型不正」ではなく「立件型不正」がありうると考えられます。実際に企業組織や大学組織、あるいは行政組織など幅広い組織が「立件型不正」に巻き込まれるケースがありうるのです。

 企業組織であれば、大川原化工機事件(編集部注/軍事転用可能な製品を輸出した外為法違反容疑で2020年3月に経営陣が逮捕)は、このような「立件型不正」の問題を浮き彫りにしました。このような事件は、とても怖いことではありますが、どのような組織においても「起こりうる」と考えることによって、万が一「立件型不正」の対象になったとしても十全な対応ができると考えられるでしょう。