そして、ちょうどフランクリンの『自伝』に出世欲を煽られたアメリカ中の若者たちの誰も彼もが懸命に自助努力を重ね、仕事に励んだ結果、アメリカの近代化が急ピッチで進むことになったように、福沢諭吉の『学問のすゝめ』が出たことによって、明治期の日本に一大出世ブームが巻き起こり、野心に燃えた若者たちが首都東京を目指して上京し、学問を積んで政界・産業界に飛び込んでいった結果、日本の急速な近代化が図られたのである。

アメリカと日本の急速な近代化は
自己啓発本によって成し遂げられた

 その意味でアメリカの、そして日本の急速な近代化は、自己啓発本によって成し遂げられたと言っても過言ではない。世間的にあまり認識されているとも思えないが、実は自己啓発本の持つパワーというのは、それに感化された個々人の運命を変えるだけでなく、一国の歴史を変えるほどのものなのである。

 そして福沢諭吉の『学問のすゝめ』以後、日本でも人格主義に基づく自助努力系自己啓発本が続々と出版された。たとえば内村鑑三の『代表的日本人』(1894)や『後世への最大遺物』(1897)しかり、新渡戸稲造の『修養』(1911)や『自警(録)』(1916)しかり、幸田露伴の『努力論』(1912)しかり、高橋是清の『高橋是清自伝』(1936)しかり。

 戦後を代表する自助努力系自己啓発本としては、何と言っても『道をひらく』(1968)という驚異的な大ベストセラーがあって、ベンジャミン・フランクリン同様、一代にして功成り名遂げた松下幸之助が立身出世の秘訣を披露しているし、最近で言えば水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』(2007)も、メンターの「ガネーシャ」(編集部注/作中に登場するインドからやってきた神様)が次々と課す課題(=徳目)を順次こなしていくことで、主人公が人間的に成長していく様を描いている点において、『フランクリン自伝』直系の本と言っていい。

 アメリカにおけるのと同様、日本においても自助努力系自己啓発本の系譜は、今なお連綿と続いているのである。