企業の成長は人
社員は価値創出の源泉

 本社の管理機能を束ねたGlobal Business Platform(GBP)本部のトップとして、攻めと攻めの経営を実行するうえで意識していることはありますか。

 一言で言うと、チェンジマネジメントです。日本の多くの企業がそうであったように、管理部門は重要な仕事をしていながら、コストセンターと見られがちでした。さらに問題なのは、そのようなマインドセットやビヘイビア(行動)が管理部門の組織内部に醸成されてしまうことでした。しかし、我々は誰かを管理するためや、何かを管理するために毎日会社に来ているのかというと、それは違う。TELグループの社員、仲間たちが、グローバルに思い切って持てる能力を発揮し、活躍できる舞台や基盤をつくるのが我々の仕事です。そのために、2018年にGBPという名前に看板をかけ替えました。

 そのうえで、どのようにマインドセットや行動を変えてほしいかというと、攻めと攻めの経営に向けて一人ひとりがビジネスパーソンとしての役割と責任を理解し、変化を先読みして、自律的に柔軟に対応することです。実はそれが、創業以来の当社の理念であり、カルチャーなのです。しかし、企業規模が大きくなり社員数も増える中で、一時的に理念やカルチャーが薄まる時がありました。

 2006年に策定した「TEL Values」は、「企業の成長は人、社員は価値創出の源泉」という考えの下、グループで働く社員の心構えと行動規範を示したもので、「誇り」「チャレンジ」「オーナーシップ」「チームワーク」「自覚」の5つから成ります(図表1)。たとえば、ゴールに向かってチーム全員で駆け上がり、最後のパスがうまくつながらなくて得点に至らないことがありますよね。そういう前向きな「チャレンジ」はみんなで奨励していこう、パスミスがあったら「チームワーク」により全員でカバーし合おうと。つまり、TEL Valuesに基づいて社員一人ひとりが持てる力を最大限発揮できる環境をつくるのが、GBP本部のリーダーとしての役割だと思っています。

 人事総務、法務コンプライアンス、ファイナンス、ITという一般的にはそれぞれが独立した本部として存在するほどの幅広いコーポレート機能を、GBP本部として一つにまとめた狙いについて教えてください。

 グローバルでワンチームとなり、攻めの姿勢で経営基盤を整備していくという意識と行動をGBP全員と共有するのが目的です。

 これまでもグローバルなプロジェクトに組織横断で社員が参加することはあったのですが、ファイナンスからはこの人、リーガルからはこの人といったように、ある程度特定のメンバーになる面がありました。それだと、組織・人材の能力が固定化されてしまうリスクがありました。グローバルの人材から最適なメンバーを柔軟にアサインできるようにしたかった。それには、GBPとして一つにまとまっていたほうが、動きが取りやすいと考えました。

 また、TELグループでは従来から、部門長やグループ会社トップにできるだけ権限委譲して、スピーディな意思決定ができるようにしてきました。そのため、海外を含めたグループ会社が、それぞれの管理部門を持っています。それはやむをえないのですが、グローバル共通のビジネス基盤をつくっていくとなると、グループ全体に横串を通して柔軟かつ有機的な連携を図らなくてはなりません。

 たとえば、人事でも法務でも高度な専門性を持った人材をグループ各社が別々に育成するのは効率が悪い。ですから、GBPとして人材をプールし、各領域の専門人材やリーダー候補をマネジメントすることにしました。

 社員の側から見ると、ふだんはグループ各社トップのビジネスパートナーとして人事、法務、ITなどの専門性を発揮しながら、リポートラインはグループ会社トップとGBP本部の両方にある。いまそういう形に移行しつつあります。従来ですと、あるグループ会社の人事部門なり法務部門にいる社員は、本社からの出向者を除いてキャリアのステップがその会社の中に閉じてしまいがちです。これからは、GBP本部に異動したり、他のグループ会社に移ったりといった新しいキャリアパスが開けます。

 グローバル共通の人事等級制度としてGTC(Global TEL Career-paths)があるので、グループ内での異動はスムーズにいくということですね。

 GTCは2017年に設定したものです。GTCでは職種と職責が明確に定義されており、国やグループ会社を超えた異動や社員間のコラボレーションを容易にする目的がありました。

 制度改定に当たっては、(半導体製造装置世界最大手の)米アプライドマテリアルズとの経営統合計画(注)および計画解消を経て得た学びも活かしました。当社が世界で飛躍するために設けた制度であり、これに合わせて職種・職責ごとの報酬もグローバル水準に引き上げてきました。

注)東京エレクトロンとアプライドマテリアルズは、2013年に経営統合の契約を交わしたが、米司法当局による合併承認の目処が立たず、2015年に統合契約を解消した。