伊藤忠商事が買収した、旧ビッグモーター(現WECARS)の不正の根の深さが次々と明らかになっている。保険金の不正請求では約6万件超の水増しの疑いが発覚。事故車を修理歴がないと偽って販売していた問題も表面化した。こうした不祥事の再発リスクを抱えてでも、中古車ビジネスに挑戦する伊藤忠の狙いは何か。特集『伊藤忠 三菱・三井超えの試練』の#2では、EV(電気自動車)時代を見据え、中古車ビジネスとエネルギー事業を掛け合わせる伊藤忠、WECARSの秘策に迫った。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
取材で分かったWECARSの事業の幅広さ
想定する事業は、電力、建機、ソフト開発も…
新生WECARS発足から約3カ月が経過し、旧ビッグモーターの不正の根の深さが明らかになってきた。損保大手4社の調査で、7月22日には保険金の不正請求で約6万5000件の水増しの疑いが明らかになり、24日には事故車を修理歴がないと偽って情報サイトに表示、販売していた問題で消費者庁から再発防止の措置命令を受けた。
不正の温床は激しいノルマと最大で年収4600万円に達していた業界水準を大幅に超えるインセンティブ(販売実績に応じて手当などを支給する制度)にあった。だが、これらを厳しく改めれば「社員のモチベーションはそがれ業績が大きく落ちるし、緩めれば人が入れ替わっているわけではないから不正は再発する」(証券アナリスト)。実際、同業他社で保険金の不正請求が発覚したネクステージは2023年10月にインセンティブを廃止した結果、23年12月~24年5月期の連結決算は、純利益が前年同期比5%減の53億円となった。インセンティブ廃止の影響が如実に表れたのだ。
インセンティブについて伊藤忠商事関係者は「売り上げ至上主義、利益第一主義になってはならず、報酬制度は見直しを予定しているが、インセンティブが含まれていること自体を悪いとは考えていない」と改革に自信を見せる。染み付いた業界体質を一掃して中古車ビジネスに活路を見いだそうとしている伊藤忠の狙いは何か。
EV(電気自動車)シフトを見越して中古車ビジネスが変貌を遂げる中で、エネルギーを切り口に中古車ビジネスそのものを組み直そうとする野心が、伊藤忠にはある。同社は、WECARSをてこにどこに向かおうとしているのか。WECARSの事業の幅は、中古車のみならず建機やソフトウエアを扱うなど多岐にわたることが分かった。次ページで、伊藤忠が目指す「中古車ビジネス3.0」を明らかにする。