スズキの野望#1Photo:Bloomberg/gettyimages

スズキは1983年にインドで生産を始めて以降、経済成長を背景に同国で四輪車のシェアを獲得してきたが、ここにきて成長に陰りが見えつつある。2024年度には電気自動車(EV)の新車種投入を目指しているが、EVでも確固たる地位を築くことができるのか。今年6月にモディ首相による3期目がスタートしたインドで、スズキが直面する地政学リスクについて明らかにする。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)

タイは撤退したが、インドでは攻勢
約7000億円投資で生産能力増強

 2024年6月、スズキはタイにある四輪子会社の工場を25年に閉鎖すると発表した。12年に生産を開始してからピーク時には輸出向けを含めて約6万台を生産していたが、中国の電気自動車(EV)メーカー比亜迪(BYD)などの進出もあり撤退に追い込まれた。

 ハイブリッド車(HV)人気を背景に、大手自動車メーカー各社は中国や東南アジアから北米にシフトする姿勢を鮮明にしているが、スズキの戦略は、自動車業界の主流とは一線を画している。独自戦略を取ることができるのは、インド市場での強みがあるからだ。

 スズキは1984年にインドで四輪車の生産を始めて以降、同国の経済成長を背景にシェアを拡大してきた。24年1月には、スズキはモディ首相の地元であるグジャラート州における7000億円規模の投資計画を表明した。

 同州に100万台規模の新工場を建設するほか、既存の工場の生産能力も25万台引き上げる。24年度はSUV型EVの生産も開始する予定で、30年度にはインドで400万台生産できる体制を整える計画だ。

 足元の販売実績を見てみると、20年度は世界的な新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンの影響で前期比7.8%減の132万台まで落ち込んだが、感染が和らいだことや天然ガスを燃料とする圧縮天然ガス(CNG)車の販売増加が寄与して23年度は179万台まで回復し、インドの販売台数は過去最高を更新した。スズキ全体で見ても316万台の販売実績のうち、56%を占めるなど、インドはスズキの屋台骨となっている。

 ただ、コロナ前の18年度の販売台数(175.4万台)と比較すると、その差は4万台と微増にとどまっており、右肩上がりで伸びているとは言い難い(下図参照)。

 人口が中国を抜いて世界一になったインドでは、今後もクルマの需要が拡大することが見込まれるが、“落とし穴”がないわけではない。次ページでは、今年6月からモディ首相の3期目の政権がスタートしたインドに潜む、スズキのリスクを明らかにする。