まわりの同期がどんどん出世していく中、自分だけ出遅れている。自分はいつになったらやりたい仕事で成果を出せるようになるのだろう? 徐々に開いていく実力の差に、焦っている人も多いだろう。
キャリアの壁にぶつかり、不安になったときに読んでもらいたいのが『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』だ。フリーライターとして約30年の経験を持ち、これまで3000人以上の著名人にインタビューをしてきた上阪徹氏。大企業の社長や起業家、俳優、作家など、いわゆる社会的に成功した人に取材する中で、「どうして、この会社に入られたのですか?」「どうして、この仕事を選んだのですか?」とたずねてきたという。一流のビジネスパーソンたちが「成功する前の下積み時代をどう過ごしていたのか」が、具体的なエピソードとともに解説されている本書。
今回は、そんな本書のエッセンスをご紹介する。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

彼らが成功する前に大切にしていたことPhoto: Adobe Stock

「入社するつもりないのに内定出た」がよくある理由

「いや、入社するつもりはなかったんだけどね」と言いながら、内定をいくつもとっている同級生が、いつも不思議でしょうがなかった。

 新卒で就職先を探しているとき、私はことごとく面接に落ちた。いいところまでは行けるのだが、内定がもらえない。

 それに対して、たくさんの会社を受けまくり、何社も内定をとる、いわゆる「無双状態」の就活生もいた。この差はいったいなんなんだろうか、とずっと疑問だった。

 ところが本書を読んで、なるほど、そういうことかと腑に落ちた。

 本書には、さまざまなエピソードが出てくるのだが、おもしろかったのは、「たまたま今の仕事を選んだ」という成功者が意外にも多かったということだ。

 こういうことがやりたい、こういう目標を成し遂げたい、という強い意思を持ってその会社を選んだからこそトップにのぼりつめたのかと思いきや「第一志望は実は他にあった」「ちょっとした偶然だった」「たまたま友達に誘われて説明会に行った」と答えた人が少なくなかったのだという。

自己分析をし、業界の分析や会社研究をし、将来のイメージを描き、どうしてもこの会社でなければならない、と意を決して入社した、という人はほとんどいませんでした。完全に肩の力が抜けていたのです。(P.24)

「いつ採用を決めてるの?」採用担当者が漏らした本音

「別に、そんなに志望順位は高くなかったんだけど、受かっちゃったんだよね」という、大学時代の同級生の顔が浮かんだ。

 当時は、どうしてこんなにがんばって対策をしている自分は受からないのに、そんなに気合いが入っていない人が受かるんだ、とちょっと理不尽に感じていたけれど、もしかすると逆だったのかもしれない。

 今思えば、肩の力が入りすぎていたからこそ、自分の人間性を見せることができず、内定をもらえなかったのかもしれない。

 著者が、大企業で面接官を務めた友人たちに「採用面接でどうやって人を選んでいるか」を聞くと、「合否のほとんどは面接室に入って椅子に座り、会話が始まった頃にはほとんど決まっている」と口を揃えて言われるそうだ。

第一印象と少し話した雰囲気がほとんどのジャッジの決め手なのです。
というのも、とりわけ現場で働く面接官が考えているのは、「一緒に働きたいか」「自分の部下にしたいか」だからです。一緒に仕事をして、心地良く働けるかどうか。(P.44)

「やりたい仕事」が決まっている社員ばかりでは困る

 ここで、本書で紹介されている面接対策の中で、とくに興味深かったものを2つ紹介したい。

 1つは、「ここに来た理由」を素直に伝えること。

 優等生的な志望動機や、「やりたい仕事」を事細かに説明するよりも、「たまたま書店で出会った本が、この会社の業界に関する本だった」など、なぜこの会社の存在を知り、興味を持ち、面接を受けてみようと思ったかをフラットに語ればいいという。

 えっ、そんなにくだけた感じでいいの? と思ったけれど、その理由として、著者は「学生は、ほとんど世の中を知らないことを面接官は知っています」と語っている。

「やりたい仕事を言わなければならない」と考えている人も多いようですが、実際のところ、本当の仕事が完全にわかるはずもない。わかったようなことを言うほうが、むしろネガティブな気がします。
こんな仕事にちょっと興味があるけれど、会社が委ねてくれる仕事に全力でトライしてみたい。そんな返答でいいのではないでしょうか。会社とて、「やりたい仕事」が完全に決まっている社員ばかりでは困るはずです。(P.43)

「いつもいいところで落ちる人」に足りない1つのこと

 とはいえ、自分より目上の、初対面の人に、等身大の自分をさらけ出せる人も少ないだろう。そこで、ポイントになるのが2つめだ。

 それは、「30代以上との会話に慣れておく」ことだという。

 上阪氏は「面接が上手な人」と「下手な人」の違いについても取材で聞いたことがあるそうだが、その決定的な違いは「慣れ」なのだそうだ。

慣れていないから、うまくしゃべれない。緊張してしまう。どうしていいかわからなくなる。普通に学生生活を送っていたら、親以外の30代以上の人とコミュニケーションを交わせる機会はほとんどないでしょう。(中略)
大人とのコミュニケーションに慣れていれば、面接はまるで違うものになります。(P.47)

 自然体の自分を見せられないと、面接官も、会社に合うかどうか適切な判断が下せない。「会社と合うかどうか」「一緒に働きたいかどうか」を判断するための材料をきちんと提供するためにも、大人との会話に慣れておくということは重要だという。

学生が「最高の選択」をするのは不可能

 これから就活を控えているという人もいるかもしれないが、とはいえ、行きたい会社に行けなかったからといってそこまで落ち込む必要はない。

もとより、仕事選び、会社選びとは、とんでもないチャレンジをしているということに気づいておく必要があります。そもそも、すべての仕事やすべての会社から選んでいるわけではないからです。
すべての仕事、すべての会社をチェックして、そのすべてが選択肢になっているわけではないのです。(中略)
こんな状況の中で、人生で最高の選択をしたい、となるわけですから、これは大変でしょう。(P.19-20)

 この言葉に、就活に失敗してきた私は救われた。

 その仕事が合うかどうかは、入ってみないとわからない。

 入社後ギャップに混乱しないためにも、「完璧な志望動機を伝える練習」よりも「自然体で面接に臨む練習」ができるといいかもしれない。