「運」や「偶然」は、準備をしてきた人に訪れる

 他にも、ちょっとした例としては、転職を考え始めたときに、普段は気に留めない求人欄を見て、たまたま、希望の会社が募集していることを見つけたり、仕事に閉塞感を覚えながら地下鉄の通路を歩いているなか、たまたま、社会人大学院の学生募集の広告を見つけ、応募し、合格し、修了後も研鑽を重ね、博士課程まで進んだという話も耳にしたことがあります。

 昇太師匠の例のように、まったく意図しないところから、偶然によってキャリアのスタートが始まることもありますが、一般的には、問題意識を持って模索していたり、ある方向で努力をしているときのほうが、偶然に出会う確率が高いように思います。アンテナを張っておくことによって、普段だったらやり過ごしてしまう、ちょっとした情報に気づけるものです。

「幸運の女神は準備している者にしか微笑まない」という言葉がありますが、言い得て妙だと思います。偶然の出来事をラッキーチャンスとしてキャリアに活かすために必要な準備は次の3つだと、私は考えています。

 1つ目は、計画的に学びを進めること。行動は最重要ですが、プロセスがある程度見えていることに対しては、計画的に取り組むことです。例えば、資格取得のための勉強などがあげられます。

 2つ目は、人との交流を重視すること。偶然は人との交流を介してもたらされることが多く、「弱い紐帯(緩やかなつながり)」をパラレルキャリアの実践を通じて拡大しておくことは大いに役に立ちます。Zoomなどは距離的に離れた人とも容易に交流できる点で便利ですが、双方がより理解し合うためには、直接対面がお勧めです。画面越しよりも実際に会うことで、得られる情報の質と量がアップするからです。

 3つ目は、「計画された偶発性理論」で示された“5つの姿勢”(「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」)の実践です。

 計画は大切ですが、計画だけを徹底的にしても、行動しなくては何の結果も残りません。一方で、計画なしで行動しても得られることは限定的です。課題ごとに計画と行動のバランスを考えることが必要だと私は思います。基本的には、プロセスがある程度見えている課題に対しては、具体的に計画をして、着実にPDCAを回す。一方で、見通しが不透明で計画立案が困難な場合には、行動重視で、行動するなかで出会う偶然を活用することが、合理的なキャリア形成の道とも考えられます。

 不透明ないまの時代を生き抜くうえで、偶然をキャリアに最大限に活かすことが、最も大切な視点であると私は思っています。

 行動するなかで出会う偶然を、ラッキーチャンスとしてキャリアに活用できるように、日頃から “5つの姿勢”を実践するとともに、自身での学びを進めるなどの準備をしておくことが、人生百年時代のサバイバル戦略ともいえます。

「運も実力のうち」という言葉を聞きますが、やはり、準備をしてきた人に「運」は味方しがちです。

 逆説的ですが、実は、「運こそ実力を反映している」といえるのかもしれません。